純愛以上、溺愛以上〜無愛想から始まった社長令息の豹変愛は彼女を甘く包み込む~
特別な人
宗輔は私のコートとバッグを一階のクロークで受け取ると、私の肩を抱くようにしながらホテルの駐車場へ向かった。
乗り慣れた彼の車のシートに背中を預けて、私は少しだけ落ち着きを取り戻した。けれど、体の所々に大木の手や体の感触がまだ残っていて、突然ふっと思い出されては嫌悪感に鳥肌が立つ。大木の唇が触れた自分の唇をハンカチで何度も何度も拭うが、その時の気持ち悪さは消えてくれない。
「うちに来たらいい。一人でいるよりは安心できるだろう?」
「一緒にいてくれるの?」
「当たり前だろ。……怖かったよな。もう大丈夫だから」
「うん……」
彼の優しい言葉に、私は深々と息をついた。
宗輔は部屋に入ると、私が入浴できるようにと手早く準備を整えてくれた。
彼の部屋に少しだけ、洋服などを置かせてもらっていた。その中から取り出した自分のルームウェアを持って浴室へと向かう。
髪を洗うと、おぞましいすべての感触を洗い流すように、その記憶を消し去るように、そして宗輔の香りをまとうように、私は彼のボディソープでしつこいくらいに全身を洗った。ゆっくりとバスタブに身を沈めているうちに、ようやく心が解けていった。
リビングに入って行くと、宗輔は誰かと電話していた。私に気づいて電話を切る。
「親父から」
私は彼の言葉の続きを待った。
「あの後、本部長がすぐに本社に連絡を入れたそうだ。処分の決定は週明けになるらしいけど、恐らくは解雇だろうって。証人もいるし、言い逃れはできないだろうからな」
「そう……。でもあの人プライドが高いから、自分から退職願を出すんじゃないかな」
「それは会社がさせないんじゃないか」
宗輔はそう言ってから、突っ立ったままの私に静かに訊ねる。
「少しは落ち着いたか」
「えぇ……」
「北山さんにも連絡を入れておくといい。心配してるだろう」
「うん」
私は頷くと、宗輔から少し離れた場所に腰を下ろして膝を抱えた。