純愛以上、溺愛以上〜無愛想から始まった社長令息の豹変愛は彼女を甘く包み込む~
「そもそも、佳奈とのことをもっと早く確かなものにして公にしておけば、こんなことにはならなかったかもしれないよな」
眉間にしわを寄せる宗輔に、私は首を振った。
「それでも、今回のことが起きなかったとは言い切れないわ……」
「そうだな。どれも今さらだよな。……ところで、あの時は警察を呼ばない判断をしてしまったけど、被害届はどうする?」
「最悪のことはなかったし、もう忘れたいから、いい」
「出さないのか」
「えぇ、もういいの」
「そうか、佳奈がそう言うんなら……」
宗輔は肩で大きく息をついた。
「とにかく、良かった。君が怪我もなく今こうして俺の傍にいてくれて、本当に……」
宗輔は私の方へ手を伸ばした。しかしすぐにその手を引っ込めて、私の顔をうかがい見た。
「あの時ホテルで、ただただ心配で何も考えずに触れてしまったけど、大丈夫か。俺のこと、怖くない?」
「怖いだなんて思うわけないじゃない。あの人とあなたは全然違うのよ。宗輔さんは、私にとって特別な人なんだから」
私は自ら彼の手を取って頬を寄せる。
宗輔はほっとした顔を見せると、私を抱き寄せた。
「なぁ、一緒に住まないか」
「え?」
「今日のようなことはもう起こらないと思う。だけど心配なんだ。君が笑っているかどうか、無事に過ごしているかどうか、毎日確かめたい」
「宗輔さん……」
「順序が違うってことは分かってる。だから、結婚まではこのままがいいのなら、そう言ってくれて構わない。これは俺のわがままだから」
頭の上で響く彼の声と言葉に、心が満たされるような思いがした。声を震わせながら私は言う。
「――いつ、引っ越してきたらいい?」
「すぐにでも」
私は宗輔の腕にきゅっとつかまり、ためらいがちに言った。
「……今日の嫌な記憶も感触もなくなるくらい、あなたのことしか考えられないようにしてほしいの」
「君がそう望むなら……」
宗輔は頷き、私を抱き締めた。
「佳奈のすべてを俺で満たしてやる」
その腕の中、彼の匂いと温もりに包みこまれてこれ以上ないくらいの安心感を覚えたら、涙があふれて頬を伝い落ちた。