純愛以上、溺愛以上〜無愛想から始まった社長令息の豹変愛は彼女を甘く包み込む~
 戸田は笑いながら大木のグラスにビールを注いだ。しかし勢い余ってか、テーブルに小さな水たまりを作ってしまう。

「あっ!すいません!手が滑ってしまって!あ、課長、袖が!申し訳ありませんっ!ちょっと、大宮さん、新しいお絞りとか頼んで下さいよっ」

 一気にわぁわぁと騒がしくなった。その隙に久美子が私の袖を引っ張る。

「気分が悪そうよ。いったん部屋の外に出よう」
「う、うん、そうするわ」

 テーブルを回り込んできた久美子が私に手を差し出す。
 その手につかまりながら、私はその場を離れた。
 やや静かな通路に出て、少し落ち着く。
 久美子が心配そうに私の顔を覗き込んだ。

「大丈夫?」
「えぇ。助かったわ」
「さっきの戸田、なかなかいい仕事してくれたわね。それにしても、まさかあのタイミングで来るとは思わなかったわよ。油断した」
「でも仕方ないわ。完全に避けられるとも思っていなかったしね。でも、二人と一緒にいて本当によかった。ありがとう」

 私はしみじみと礼を言った。もし二人といなかったら、大木をうまくかわせたかどうか怪しい。

「ところでさ」

 久美子の口調が変わった。

「うん?」
「いいこと、本当はあったでしょ?」
「別にないわよ」
「私には隠さなくてもいいんじゃないの?大宮さんじゃないけど、綺麗になったなぁ、って思って見てたのよ。何となく想像はついているけどね。それで?いつ話してくれるのかな?」
「えぇと……」

 普段から助けてもらっている久美子と戸田には、もちろん話すつもりでいる。ただ、もう少し色々なことが決まったら、と考えていた。
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