純愛以上、溺愛以上〜無愛想から始まった社長令息の豹変愛は彼女を甘く包み込む~

要注意人物


《《あの時》》のことは、別にトラウマになっているわけではない。自分の中ではすでに消化できている。ただ、嫌な記憶ではあった。

当時大学生だった数年前、私はマスターのこの店で週末の夕方から数時間、アルバイトをしていた。洋風居酒屋ということで、どちらかというと料理がメインのお店だったから、客層も女性が多くて働きやすいと感じていた。

アルバイトを始めたきっかけは友達に誘われてのことだったが、その友達は早々にやめてしまった。その後、新しく入ってきたのが金子だった。

彼は別の大学に通う学生で、年は私のひとつ上だった。

マスターが採用するくらいだから、悪い人ではないのだろうとは思っていた。しかし私の目には、その外見や話し方は軽薄に映っていた。周りにはいないタイプだったこともあって、私は彼を敬遠していた。言葉を交わすのは仕事で必要な時だけで、私たち二人の間で雑談を交わすことはなかった。

けれど内心では、金子をすごい人だと認めていた。

いつも気持ちいいくらいてきぱきと働いていたし、料理が趣味だとかで、マスターに任されていたメニューなんかもいくつかあった。いわゆる甘いマスクとでもいうのか、端正な顔立ちをしていて、接客態度も柔らかい物腰だったから、彼を目当てにやってくる女性客も多かった。そう言う意味で、彼は売り上げにも貢献していたと思う。

そんな金子の働きぶりに感化された私は、せめて接客は彼に負けないくらいには頑張ろうと思った。その頑張りが後々、まさかよくない事態を招くことになるとは思っていなかったのだが……。

< 17 / 138 >

この作品をシェア

pagetop