純愛以上、溺愛以上〜無愛想から始まった社長令息の豹変愛は彼女を甘く包み込む~

私は苦笑を浮かべた。

「さぁて、どうなんだろうね」

そうは言ったが、根に持たれているとしたら、確かにその一件くらいしか思いつかない。

私は外資系生命保険会社の地方支店に、営業事務職として勤務しているが、大木が課長としてこの支店に転勤してきてから二年目の冬のこと。大木から告白された。

その日は残業となってしまい、私は席に残ってパソコンに向かっていた。その時やはり同じように残業していた大木から、「好きだ、付き合ってほしい」と言われたのだ。大木のことは上司としか思えなかったし、正直言って好みではなかったから、丁重に断った。

しかしその後からだ。気まずさの裏返しなのか、それとも恥をかかされたと思ったのか、私に接する時の大木の言葉に棘が含まれるようになった。最近では、それが態度にまで現れるようになっている。

例えば今のように、わざと昼時を狙って仕事を振ってくるだとか、本当ならもっと早く出せたのではないかと思われるような指示を、予定間近になってから出してくるだとか、内容は様々だ。

しかし私は、どんなに大木が意地の悪いことを仕掛けてきても、いつも笑顔を貼り付けて対応し、こなしてきた。そのことは大木にとっては面白くなかったようで、くだらない嫌がらせがなくなることはなかった。

だがそれも、あと残り半年ほどの我慢だ。大木は転勤族。営業職は大抵2、3年でどこかへ移動することになっている。彼はここに来て3年目だから、年度末に移動することはほぼ間違いないだろう。

「何か手伝おうか?書類、山になってるよ」

久美子もやはりそう申し出てくれたが、私は笑って首を横に振った。

「大丈夫。ていうか、こうなったら意地よ。一人で完璧にやってやるわ」

「さすが、佳奈だ。じゃ、悪いけど、先にお昼行ってくるわね。その代わり、午後は任せて」

「ありがと。行ってらっしゃい」
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