純愛以上、溺愛以上〜無愛想から始まった社長令息の豹変愛は彼女を甘く包み込む~
私は大きなため息をついた。
「あのねぇ……」
せめてもう少しいい出会い方をしていたら、私も久美子のように、少しくらいは思わないでもなかったかもしれない。でも、あれではね……。
心の中でぼやいていると、大宮が近づいてきた。
「早瀬さん、今日はよろしくね。同席できなくて悪いんだけど……」
大宮は申し訳なさそうに顔を歪めた。
「いえいえ。大宮さんも、契約、頑張ってください。それに私の方は大丈夫です。今日は簡単な説明と、書類を書いて頂くだけですから」
「もしも何かあったら、後で教えてください。フォローするので」
「その時はよろしくお願いします。行ってらっしゃい」
私たちに見送られて、大宮は出かけて行く。
「さて、私も仕事に戻るか」
久美子もそう言うと自分の席に戻った。
周りが静かになったと同時に、大木の声が飛んできた。
「早瀬さん、ちょっといいかな」
「はい」
まだ面倒事を頼まれるのかと気を重くしながら、私は大木のもとへ向かった。
「この稟議書なんだけど、今日の便に乗せたいんだ。資料揃えて作ってもらえるかな」
「えっ、今日の便ですか?今日は午後3時に、研修生登録予定の方とお約束が……」
「うん知ってる。だけどまだ時間あるよね?早瀬さんならできるでしょ?」
笑みを浮かべながら言ってはいるが、大木の目は笑っていない。
いつもの嫌がらせか――。
大木は私が「できない」と言わないことを見越して、このタイミングで言ってきたのだろう。
腹は立ったが、今日の便に乗せる自信はあった。高原の対応以外、大きな仕事は抱えていないから、お昼を抜けば間に合う。
「承知しました。早速取り掛かります」
「頼んだよ」
大木がにやりと片頬を歪ませるのが目に入り、私は奥歯をきりっと噛みしめた。