純愛以上、溺愛以上〜無愛想から始まった社長令息の豹変愛は彼女を甘く包み込む~
「――以上です。何かご質問はありますか?」
「いや、ありません。とてもわかり易かった」
高原に真顔で褒められて、私は反応に困る。言葉がつい、どもりがちになってしまった。
「そ、そうですか。も、もし後で何かあれば、ご連絡、ください。大宮からご説明などさせて頂きますので……」
「えぇ、分かりました」
高原は私が渡した資料をまとめると、丁寧にカバンの中に仕舞いこんだ。
無事に終わった――。
肩の荷が下りたような気持ちで、私は高原に言った。
「今日は長時間ありがとうございました。大変お疲れ様でした」
高原は椅子から立ち上がると、カバンに手をかけながら私を見た。
「早瀬さん、この後は忙しいのか?」
高原の口調が元に戻った。そのスムーズな態度の切り替え方に戸惑いながら、私はつい素直に答えてしまう。
「いえ、特には」
「勤務は5時まで?」
「はい」
「そうか、あと30分くらいってとこか。……ところで、帰る時に大木課長に挨拶していこうと思うんだけど」
「分かりました。呼んで参りますので、カウンター前で少しお待ちください」
私は大木の元へ行くと、終了の報告と共に高原の言葉を伝えた。
「ご説明とお手続きが終わりました。高原さんが、課長にご挨拶したいと仰っているのですが……」
「分かった」
大木の機嫌がよくなった。彼は他人から《《立てられる》》ことが好きなのだ。いそいそとした足取りで高原の元へ向かう。
「今日はお疲れ様でした。何か問題はありませんでしたか?」
「えぇ、早瀬さんのおかげですべてスムーズに終わりました。……ところで大木課長。今日この後、早瀬さんをお借りしたいのですが、よろしいでしょうか」
大木は困惑した顔で高原を見上げた。そして私も。
――いきなり何を言い出すのだ、この人は。
大木が軽く眉根を寄せながら高原に訊ねた。
「どういうことでしょうか?」