純愛以上、溺愛以上〜無愛想から始まった社長令息の豹変愛は彼女を甘く包み込む~
高原は答えた。
「これからは私も早瀬さんにはお世話になりますから、この後、父を加えて懇親の席を設けさせていただきたいと思ったのです。父も、是非にと言っておりました。急なことで申し訳なかったのですが、先ほど早瀬さんに予定を伺ったら、今日は残業の予定はないと仰っていましたし……。大木課長、よろしいですよね?」
高原の言葉遣いは柔らかかったが、その底の方には有無を言わせないような、押しの強さのようなものが感じられた。
「それは、まぁ、社長様もそう仰っているのでしたら……」
そうは言いながらも大木は不服顔だった。おそらく、どうして私だけが呼ばれて、その上司である自分には声がかからないのかと思っているのだろう。しかし相手が相手だけに拒否はできないようで、彼は仕方なさそうにため息をついた。
「分かりました。……早瀬さん、念のため確認するけど、今日残っている仕事はないんだね」
「はい、急ぎのものはありません。……ですが、私がご一緒して構わないのでしょうか。むしろ、大宮の方がいいのでは……」
大木はふっと鼻で嗤って、私を見た。
「私もそう思わないでもないが、社長が是非にと君をご指名のようだから」
まったくいちいち癇に障る言い方をする人だ――。
しかし私は表情を変えずに、頭を下げた。
「分かりました。では、行ってまいります」
「今日は片づけたら、早めに上がって構わない。お待たせしてはいけないからね」
「はい。そうさせていただきます」
私はちらっと久美子の方を見た。
久美子は胸の前で両手を組み合わせると、丸を作って見せた。たぶん、後のことは任せろという意味だろう。
高原は大木の了解を得たと見ると、私に向き直って言った。
「それではそういうことで、早瀬さん、どうぞよろしくお願いします。私は一階のロビーで適当に時間潰していますから、ゆっくり支度をしていただいて構いません」
「はい、承知しました」
高原が出て行くのを、その場にいた職員皆で見送る。
その後私は慌ただしくデスク周りを片づけた。まだ苦い顔をしている大木に挨拶をすませ、久美子と戸田に後のことを頼む。二人ともなぜか目を輝かせて私を見ていたのが気になったが、高原を待たせてはいけないと思い、帰り支度をするためにロッカールームへと急いだ。