純愛以上、溺愛以上〜無愛想から始まった社長令息の豹変愛は彼女を甘く包み込む~

私は密かに驚いていた。初対面の時にはまったく想像できなかった、高原の一面を見たような気がしたのだ。こんな風に紳士的な態度も取れるのかと、意外に思った。

運転席に乗り込んだ高原は、私に顔だけを向けて言った。

「シートベルト、よろしく」

「あ、そうですね。すみません」

普段の私はもっぱら自分で運転することの方が多く、助手席に乗ることは滅多にない。初めて乗るタイプの車種である上に、いつもとは逆の向きから装着することになるシートベルトに、私は手間取った。スカートの裾から覗いて見えそうになる膝を隠すようにそこにバッグを置き、体を捻るようにしながらベルトの端を探す。

「えぇと……どこかな……」

思わずこぼれた独り言に答えるように、場所を示す高原の声がした。

「ほら、そこ」

次の瞬間、ふわりと爽やかな香りが鼻先をくすぐった。はっとした時には、高原の横顔が目の前にあって、不覚にも私の鼓動は跳ね上がった。もたつく私に代わってシートベルトを引っ張り出してかけてくれたのだと分かったが、一度動き出した鼓動はなかなか鎮まってくれない。

「よし、これでいい。……ん、どうした?」

「い、いえ、なんでもありません。あ、お、お手数をおかけして……」

しどろもどろとなっている私に、高原は訝し気に目を瞬かせた。しかしすぐに何かに思い至ったらしく、無表情だった顔に、からかうようなにやにや笑いを浮かべた。

「今、何か勘違いしただろ?」

「な、何ですか、勘違いって」

慌てる私を面白そうに見ると、彼はわざとのように私の目をじっと覗き込んだ。

「例えば……キスされる、とか思ったりしたよな?」

「な、何を言ってるの?そ、そんなこと、あるわけないでしょ。からかうのはやめて!」

「っ、あははっ」

高原は体の位置を戻してシートに背を預けると、声を上げて笑った。

それは、今日、いや、先日マルヨシで会って以来初めて見る顔だった。厭味ったらしくもない、からかうようでもない、まったく普通の自然な笑顔だ。

こんな笑い方、できるんだ――。

驚きを持ってその顔を眺めている私に、高原は笑顔の余韻が残る顔で言った。

「やっと、この前みたいな感じになったよな」
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