純愛以上、溺愛以上〜無愛想から始まった社長令息の豹変愛は彼女を甘く包み込む~

私は動揺した。

高原の言う「この前みたい」とは、カラオケ店での私の態度のことだろう。あまり思い出したくない記憶である。

「な、何かしら、この前って」

高原は、しらばっくれようとする私を横目でちらっと見た。それから前を向いてハンドルを握ると、ぼそりと言う。

「からかうのはこれくらいにして、行くか」

からかうって何よ――。

笑顔を見せたり、急にまた無表情になったりと、高原の変化にいちいち反応してしまっている自分が悔しい。私はむっとしたまま窓の外に目を向けた。

そんなスタートとなってしまったために、私たちの間に会話はなかった。高原は運転に集中し、私は黙ったまま流れる外の景色を眺めていたから、車の中は静かなものだった。

会社を出発してから数十分後、私もよく知るカフェレストランが目の前に見えてきた。

高原がその建物の方へ車の鼻先を向けたのを見て、私は戸惑った。

「あの、ここですか……?」

そういう場所を期待していたわけではないが、私はてっきり敷居の高そうな店に連れて行かれるのだと思っていた。しかしここはカジュアルレストラン……。

高原は駐車場に車を止めてエンジンを切ると、小憎らしいような笑みを口元に刻んだ。

「シートベルト外すの、手伝ってやろうか?」

「け、結構ですっ!」

私は強い口調で拒否の言葉を口にすると、慌てて金具をはずした。高原の車に乗った時のことが思い出されて、耳の辺りがカッと熱くなる。

そんな私の様子や表情に気がついたはずだが、高原はそれ以上からかうようなことは何も言わなかった。黙って車を降りると、助手席のドアに手をかけた。

「どうぞ」

「ありがとうございます……」

「どういたしまして」

高原は感情の読めない顔で短く言うと、静かなまなざしを私に向けた。

私はその視線をまともに見返してしまった。その瞬間、胸のずっと深い所で鼓動が落ち着きをなくす。

この人に気持ちが揺れることなどあり得ない――。

私はその感覚をなだめるように、胸元を掌でぎゅっと押さえつけた。
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