純愛以上、溺愛以上〜無愛想から始まった社長令息の豹変愛は彼女を甘く包み込む~
「帰りづらくなる?」
聞き返す私に、高原は面白がるような顔を向けた。
「だって、早瀬さんは親父のお気に入りなんだろ?あの人、これ幸いとばかりに君のこと、構いたがるんじゃないのか」
「はぁ……」
その可能性がゼロだと言い切れないところが厄介だ。私はこめかみを指で押さえながら、高原に言った。
「……とりあえずは、分かりました。でも、本当に、なぜこんな嘘をついたんですか?」
「それは」
高原はメニューを開きながら言った。
「早瀬さんが、お腹を空かせてまで仕事を頑張っていたようだったから」
「え?」
「別室に移動する前に、君、少しだけ俺から離れた時があっただろ?その時、近くにいた女性二人の話が聞こえてね。小声でしゃべってたつもりだったんだろうけど、俺、自慢じゃないけど耳がいいんだ。それで、君が昼休みを取らずに仕事していたってことを知ったんだよ。その理由もなんとなくだけど、彼女たちの話しぶりから想像できた。だから、余計なお世話だとは思ったけど、誘った」
「え、えぇと……?」
私の頭の中はますます混乱した。
「それだけのために、わざわざ社長の名前を出したんですか?」
高原は、それが何か?とでもいうように、私を見る。
「それが一番もっともらしく聞こえると思ったからな」
「はぁぁ……」
私は深々とため息を漏らした。
「訳が分からない……」
「仕方ないだろ」
「何がです?」
「見兼ねたんだよ。早瀬さん、自分で気づいていなかったのか?ひどく疲れたような顔をしていたぞ。あれでよく人前に出られたよな」
そんなに分かりやすい程ひどい顔をしていたのだろうか。そうだとすれば、高原の最後の一言に対して怒ることはできない。そしてそれは今もなのかと、私は自分の顔に手を当てた。軽く化粧直しをしてきたから、少しはマシだと思うのだが……。
そんな私の心を読んだかのように、高原はにやっと笑った。
「安心しな。今は、あの時ほどひどくはない」