純愛以上、溺愛以上〜無愛想から始まった社長令息の豹変愛は彼女を甘く包み込む~

温もり


帰りはバスを使って帰るつもりだった。しかしその予定は高原に軽く流されてしまった。結局は言いくるめられた形になって、車に乗るよう誘導されてしまう。

ただ、本音を言えば助かった。今日は色々なことがありすぎて、疲れていた。その原因の大部分は、仕事というよりも高原に翻弄されたことに占められていたけれど。

これまで私は高原のことを、とにかく無愛想で嫌味で感じの悪い人だとしか思っていなかった。

そんな人の、私を気遣うような行動や、ふとした拍子に浮かべる自然な笑顔に、私はいちいち反応した。その瞳の奥にちらつく優しい光に気づいた時、なぜか心が揺れた。精神的にヘトヘトなのはそのせいだ。これまで経験したことがないほどに、気持ちのふり幅が激しかった。

助手席に乗った私は、体を沈めるようにシートに背を預けると、小さなため息をついた。

それを耳にした高原が、エンジンをかけようとしていた手を止める。

「なんだ、気疲れでもしたか」

笑いを含んだ言葉の中にまたしても嫌味を感じて、むっとした私はつんけんと答えた。

「えぇ、おかげさまで」

高原はふっと笑った。

「それは悪かったな。――ところで、家はどの辺り?」

「……」

正直に住所を口にすべきかどうか迷った。言ったとしても特に問題はないのだろうが、なんとなく教えたくなかった。

「何を警戒してるのか知らないが、部屋を教えろって言ってるわけじゃないぜ。とりあえずは近くの目印を教えてくれ」

あ、そうか、目印、ね――。

「それなら、白山神社の駐車場で下ろしてもらっていいですか」

「渋い目印だな」

くくっと笑う高原に私は淡々と言う。

「そこから近いし……境内の駐車場に止めれば邪魔にもならないでしょうから」

「確かに」

高原は納得したように頷くと、エンジンをかけて車を発進させた。
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