純愛以上、溺愛以上〜無愛想から始まった社長令息の豹変愛は彼女を甘く包み込む~
白山神社はこの辺りでは大きな神社だ。初詣の時期にはたくさんの人が集まるが、それ以外でも、一年を通して何かしら祭りやイベントを行っていて、知名度も高い。今の時期はそろそろ紅葉の季節ということで、境内の所々にライトアップが施されていた。
高原は神社の敷地内に入ると、駐車スペースの枠内に車を止めた。他に止まっている車は2、3台で、境内を歩く人影はまばらだった。
「ここでいいのか」
「はい」
私は頷きながらシートベルを外すと、高原に礼を言った。
「送ってくださってありがとうございました。それから、食事、ご馳走さまでした」
騙されたような形での食事の席とはなったけれど、料理はおいしかったし、支払いも高原が持ってくれた。結果的に私の方が接待を受ける側になってしまったかのようで、文句など言えるわけはなく、感謝するしかない時間を過ごさせてもらった。
「それでは、私はこれで失礼します」
そう言って頭を下げ、私は車から降りようとドアに手をかけた。
そんな私を引き留めるように、高原が言った。
「せっかくの神社だ。ちょっとお参りでもしていかないか」
「え、あの……」
私は戸惑った。このままさらっと高原の前から去ろうと思っていたのに、その高原と一緒に神社に参拝ですって?しかも、ここは確か縁結び。それを知っていてのことなのか、それとも知らずに言い出したのか……。
「ここまで来て素通りするなんて、神様に失礼だろ」
「それは、そうかもしれませんけど……」
私は高原の横顔をまじまじと眺めた。薄暗いせいで、ただでさえ読めない表情がますます分からない。
「何?」
「いえ、どうして一緒に参拝しなければいけないのかな、と……」
私はうっかり本音を口にしてしまった。しかし逆に高原から切り返される。
「どうして一緒に参拝しちゃだめなわけ?」
その声音にからかうような響きを感じ取り、私は顔をしかめて力なく沈黙した。
余計なことはもう何も言うまい――。
しかし高原は、最初から私の返事を待っていたわけではなかったようだ。エンジンを止めてさっさと車の外に出ると、前から回り込んで助手席のドアを開ける。
私はため息をついたが、すぐに考え直す。
お参りしたら、そのまま帰ってしまえばいいや――。
私は自分をそう納得させて車から降りた。