純愛以上、溺愛以上〜無愛想から始まった社長令息の豹変愛は彼女を甘く包み込む~
あなたはいいかもしれないが、私がやりにくいのだ――。
その本音を口に出すのをためらって、私は口ごもった。
「この前親父の所で、大宮さんも言ってたじゃないか。早瀬さんと一緒にサポートするって」
「それはそうなんですが……」
この前そういう話をしたのは確かだ。確かなのだけれど……。
「えぇと、とにかくっ、ご相談は私でなくとも誰でもお受けできますのでそれでお願いしますっ!」
すんなりと頷いてくれない高原に苛立ち、私はつい逆切れ気味な言い方をしてしまった。思えばそれは私の勝手な言い分であって、高原はただ、この前そういう話になったことを素直に受け取っているだけなのだろう。私はすぐさま我に返り、高原の顔色をうかがった。さすがに今のは失礼すぎたと反省する。
「申し訳ありません。大変失礼しました……」
しかし、高原からは私に対する怒りや腹立ちなどは感じられなかった。彼はつかの間沈黙した後、軽い調子で口を開いた。
「それならそれで構わないんだけど……」
高原はそう言うと、おもむろに体の向きを変えた。それからゆっくりと手を伸ばし、私の頬にそっと触れた。
「なっ……に……?」
私はびくりと全身を震わせ、シートに背中を押しつけた。
「今度また、君に食事につき合ってもらうためにはどうすればいい?」
街は思いの外明るく、車の中まで届いた光が高原の姿を浮かび上がらせた。そこに見えた彼の目は、私を真っすぐに捉えている。
例え彼の手から逃げようとしても、車の中ではこれ以上の身動きは取れない。
ひと目につきにくい場所に停車してはいるが、こんなところを誰かに見られたらーー。
私はどくどくとうるさい鼓動を感じながら、声を絞り出した。
「手を、離して下さい……」
高原は私の頬に触れたまま、こう言った。
「そうだな……連絡先を教えてくれたら手を離そうかな」
「……っ!」
その感触に、胸の奥でひときわ強く鼓動が鳴った。それを早く打ち消したくて、私は彼の手を両手で押しのけながら早口で言った。
「わ、分かりました。教えます、教えますからっ。離して下さいっ」