純愛以上、溺愛以上〜無愛想から始まった社長令息の豹変愛は彼女を甘く包み込む~
「そ、そんなわけないでしょ。どうしてそう思うの。仕事で絡まざるを得ないから、ただ我慢して付き合っているだけかもしれないでしょう」
「そうかな」
高原は私の頬に触れていた手を、顎のラインに沿って滑らせた。その指で私の顎の先をくいっと持ち上げながら、彼は言った。
「本当に俺のことが嫌いなら、もうとっくに逃げていたんじゃないのか。うまい理由なんか、いくらでも適当につけられただろう。この数時間のうち、チャンスはたくさんあったはずだ。でも、君はそうしなかった。つまりそれは、俺をそこまでは嫌っていないってことだろう?現に今だって、どうして俺の手を振り払おうとしないんだ?」
「そ、それは……」
「俺のこと、気になり始めてるんじゃないのか」
「それはあなたにとって、都合のいい解釈でしかないでしょ」
私は反抗的に言いながら、目を逸らした。胸がどきどきしているのは緊張のせいなのか、言い当てられたせいなのか。それとも、高原に気持ちを絡め取られそうな予感のせいなのか。
白状するなら――。
私は高原の言葉を完全には否定できなかった。なぜならこの数時間、彼と一緒にいて、思い当たることが確かにあったからだ。それは息苦しさを伴ってはいたが、恐らくはときめきと呼べそうな感情の波だった。けれど、その感覚があったからと言って、高原に対して恋愛感情を抱いているという証拠にはならないし、すぐに彼の気持ちを受け入れられるわけでもない。
高原がくすっと笑った。
街は明るいとは言っても車の中だ。彼の細かい表情まではっきりと見えたわけではなかったが、そこに柔らかな空気を感じて私はどきりとした。
「とりあえず、今日はここまでにしておくよ」
「今日はって……」