純愛以上、溺愛以上〜無愛想から始まった社長令息の豹変愛は彼女を甘く包み込む~

高原が帰って行った後、私は大木から別室に呼ばれた。

二人きりになるのは嫌だな――。

ここ最近、高原が来る、または来たと知ると、大木の嫌味は粘着度を増していた。今度は何を言われるのかと緊張しながら入室すると、大木は私を立たせたままで、早速口を開き低い声で言った。

「早瀬さん、ずいぶんと高原さんと親しげな雰囲気だったねぇ。まさかとは思うけど、彼と何かあったんじゃないだろうね。――例えば、寝た、とかさ。彼、どことなく色気あるしねぇ」

「何をっ……!」

いきなりの侮辱発言に、私は全身がカッと熱くなった。大木得意の嫌味と言いがかりだと分かってはいたが、私だけではなく、遠回しに高原のことまでも貶めるような言葉に、私は怒りでめまいを起こしそうになった。しかしそれを必死に抑え込みながら、私は声を絞り出した。

「そんなことはしていませんし、ありえません。それに、今の課長の発言は、高原さんに対しても失礼だと思います」

「ふぅん……」

大木は腕を組むと、疑いのまなざしを私に向けて、じとっとした口調で続けた。

「失礼、ねぇ……。本当にそうかな。どうも私の目には、そう見えなかったからさ。まぁねぇ、高原さんはほんと、いい男だからね。早瀬さんが好きになる気持ちは分からないでもないな。ああいうのが好みなんだったら、私のことなんか確かに眼中にないよなぁ。まぁ、とにかくだ。高原さんだって、あんまり変な噂が立ったりしたら迷惑だろう。彼はマルヨシの跡取りなんだろうからさ。そんなわけで一応ね、確認させてもらった」

「……」

いつも以上に執拗な棘のある大木の言葉に、私ははらわたが煮え繰り返りそうだった。しかし、ここで怒りを露わにしたり涙ぐんだりするのは大木を喜ばせるだけだと思い、私は拳をぎゅっと握りしめて大木の勝手な暴言に耐えた。

「……以後、周りに誤解を与えないよう、十分に気を付けます」

悔しいけれど私はそう言って頭を下げた。

大木はふふんと鼻で嗤うと、顎でドアの方を示して言った。

「あぁ、そうした方がいい。……仕事に戻っていいよ」

「はい、失礼します」

部屋を出て、私は下唇を噛みながら思った。

―― 大木がいなくなるまでのあと半年、それまで我慢してなんとか乗り切ればいい。
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