純愛以上、溺愛以上〜無愛想から始まった社長令息の豹変愛は彼女を甘く包み込む~
私はそれほどメンタルが強いわけではない。心が完全に折れてしまう前に、彼とコミュニケーションを取ることは断念した方がよさそうだ。

それに、うっかり忘れそうになっていたが、そもそも今日の飲み会は一応合コンだった。特に重要なしがらみがあるわけではない。繋がりかけた糸を斬るのはとても簡単だ。0.1パーセントの奇跡的な偶然を除いて、今後99.9パーセントの確率で会うことがなさそうな相手ならば、特に。

私はとうとう高原に話しかけるのをやめた。

その後は、飲む、食べるに徹した。お行儀は悪いが壁に体を預けて、間違っても彼の顔が視界に入らないようにと、顔と目線を逸らし続けた。

そうやってじりじりと過ぎて行った飲み放題の90分。

やれやれこれでお開きだ――。

さぁ帰ろう、と私はバッグに手を伸ばした。

ところが、かおりは私の肩に手を置いて言うのだ。

「佳奈、この後カラオケに行こうよ」

「えぇぇぇ……」

私はかなり嫌そうな顔をしたと思うが、それは仕方のないことだ。これほどまでに疲れ、不快感いっぱいの気分になった飲み会の席は、初めてだったのだから。かおりの顔を立てる気持ちもあって、この時間内は我慢していたけれど、もうこれ以上、このメンバーでどこかに行くという流れに乗るのはごめんだった。

ほろ酔い加減のかおりに、私は耳打ちした。

「私はもう帰ってもいいでしょ?前田君と二人でどこかに行ったらいいんじゃない?このままうまく行きそうな感じに見えるし、私がいなくたって大丈夫でしょ?」
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