純愛以上、溺愛以上〜無愛想から始まった社長令息の豹変愛は彼女を甘く包み込む~
「えっ?」
私は携帯を耳に当てたまま、急いでエントランスを出た。そんなに広い駐車場ではない。私の目に、見覚えのある高原の車が飛び込んできた。
「どうして、ここにいるんですか?」
訊ねる私に、高原は当たりまえのように言った。
―― 待ってたに決まってるだろ。
「だから、どうして」
しかし高原はそれには答えない。
―― これから時間があるなら、少し俺に付き合わないか。腹、減ってるだろ。
「いえ、結構です」
私は即答した。本当は嬉しかったが、ずっと避けていた高原の誘いに、そう簡単に乗るのも気が引けた。
しかし、高原の声が優しく私の耳を打った。
―― 君が素直じゃないことは、もう分かってるよ。ひとまずこっちに来な。こんなところを誰かに見られたりしたら、色々と面倒なんだろ?
心の中を見透かされた気がした。途端にふっと全身から力が抜けて、彼を避け続けていた自分が急にばかばかしく思えてきた。
「……分かりました。今行きます」
私はそう言って携帯を切ると、高原の車の方へと足を向けた。
彼が車の中から動かないのを少しだけ不思議に思いながら、私はドアを開けて車に乗り込んだ。
「お疲れさま」
そう言って、彼はあの自然な笑顔を見せる。
私の胸は高鳴った。
「今日はどうしてドアを開けてくれなかったのか、って顔してるな」
「ち、違います。そんなこと思ってません」
心を読まれてしまったかと慌てる私に、彼は言った。
「早瀬さんの会社の前だから、あまり目立つことはしない方がいいかと思ってさ」
「そ、そうですか。それはどうも気を遣って頂いて……」
私はもごもごとと口の中で言いながら、シートベルトをした。ドアを開けてくれるという、高原の一連の行為に慣れてしまっていたような自分が、図々しくも恥ずかしい。
高原は愉快そうに笑うと、そのまま口元に笑みを乗せたまま車を発進させた。