純愛以上、溺愛以上〜無愛想から始まった社長令息の豹変愛は彼女を甘く包み込む~
この前までは特に何も思わなかったのに、二人きりの車中はひどく緊張した。それを少しでも和らげたくて、私は外の景色に目をやる。車が赤信号で止まった時、窓の外を見たまま高原に訊ねた。
「どこへ行くんですか?」
信号が変わったのを見て、高原はアクセルを踏む。
「契約してくれたお客さんの店に、礼を兼ねて行くつもりだったんだ。そこの飯ってうまいから、早瀬さんを連れて行きたいと思って待ってた」
私は目を見開き、彼の横顔を見た。
「また契約取れたんですか?おめでとうございます。すごく順調ですよね」
「ツイてるだけだよ」
「そんなことないと思います。きっと頑張っていらっしゃるからですよ」
「早瀬さんから、そんなふうに言ってもらえるとは思っていなかったな」
「私の仕事は、代理店さんのお仕事をサポートすることですから。契約が取れたことを一緒に喜ぶのは当然です」
「それにしては、最近対応してくれなかったけどな」
「そ、それは……」
「まぁ、いい。その理由は後でしっかり聞かせてもらおうか」
高原はさらりとそう言うと、ハンドルを切って大通りから脇道に入った。そこにある有料駐車場に車を止める。
「行こうか」
彼は私に声をかけると、今度はわざわざ助手席側に回ってドアを開けてくれた。
ちょっとしたことで、こんなにドキドキしてしまうなんて――。
私は自分の変化に戸惑いながら礼を言う。
「あ、ありがとうございます」
車から降りた私は、辺りを見回して思わずつぶやいた。
「近くだわ」
「何が?」
「いえ、独り言です。ところで、そのお店ってどこなんですか?私からもその方に何かひと言、お礼を言った方がいいでしょうか」
「まぁ、別に何も言わなくてもいいだろ。――とりあえず、行こう」
高原の言い方に含みのようなものを感じたが、聞き返すことはせずに、私は彼の後を着いて行った。