純愛以上、溺愛以上〜無愛想から始まった社長令息の豹変愛は彼女を甘く包み込む~
高原は以前からこの店に来ていると言った。もしかしたらそれは、実は気づいていなかっただけで、私たちはすでに会っていた可能性もあるということだ。だから高原は、マスターが私を「佳奈ちゃん」と呼んでいたことを知っていて、黙って聞き流したのではないのか――。そう考えて、私はアルバイト時代にまでさかのぼって、記憶を辿ってみた。しかし、思い当たるような人物は浮かんでこなかった。
眉間にしわを寄せながら考えていると、高原が私を呼んだ。
「早瀬さん?」
私は我に返って彼の顔を見返した。
「は、はい。なんでしょうか」
高原は私にメニューを見せながら訊ねた。
「何、飲む?」
「では……高原さんと同じものを」
「俺は今日はドライバーだから、ノンアルだよ」
「え?代行とか使えばいいのでは?」
目を瞬かせる私に、高原は笑みを浮かべながら首を振った。
「帰りは早瀬さんを送って行きたいから、今夜は飲まない。でも君は、飲みたい気分なんじゃないのか?俺のことは気にせずに、なんでも好きなのを頼んだらいい」
「飲みたい気分、って……。どうしてそう思うんですか?それに私はタクシーで帰りますから、お気遣いはいりません」
高原は少し考える素振りを見せてから、からかうような目つきで私を見た。
「最初の質問の答え。今日の早瀬さんは、今まで知らんぷりしてた俺の電話にうっかり出てしまうくらい、気持ちが穏やかじゃなかったのかな、と思った」
私は彼から目を逸らした。確かにある意味当たっている。彼の言う通り、そういう気分ではあった。今はそれ以上、追求しないでほしいと思う。
「二つ目。俺が送っていくから、タクシーはいらない。以上」
「……時々強引ですよね、高原さんって」
私は苦笑した。けれど心の中では、彼から確かに伝わってくる私への気持ちを嬉しく思っていた。そのことを顔に出したりはしないけれど。
「ということで、もう勝手に注文するぞ。マスター、注文お願いします」
待ってましたとばかりに、マスターがにこにこと満面の笑みを浮かべてやって来た。
「俺はウーロン茶、彼女にはレモンサワー。料理は軽め。あとはお任せってことでお願いします」
「了解!」