純愛以上、溺愛以上〜無愛想から始まった社長令息の豹変愛は彼女を甘く包み込む~

私は首を傾げた。

「あの時ってなんだっけ?」

「ほら、俺言ったじゃん。つき合おうかって」

何も今、高原のいる所で言わなくてもいいのに――。

私は内心慌てながらも、決めつけるように言った。

「あ、あれは、だって冗談だったでしょ。それにあの時はまだ……」

「あの時はまだ、何?」

「え、いや、その……」

まだ、などという言葉を使わなければ良かった。色々な意味で変な誤解を与えてしまいそうだ――。

私がしどろもどろになっているのを見て金子は笑い声を上げ、それからこう言った。

「そうさんがいるんなら、もう俺の出番はないってことだな。……ん?ちょっと待って。佳奈ちゃん確か、そうさんの顔って知らなかったんだよね。で、そのことを知ったのは……」

「うん。実は今。金子君が高原さんをそう呼んだでしょ?それで初めて知ったの」

「え、そうなの?そうさん、佳奈ちゃんに話していなかったの?あれ?でも、今の二人が出会うような場面って何なの?ここ?でもマスターからは何も聞いてなかったしな……。いったいどこで会ったわけ?」

金子が追求し始める。

「えぇと……」

口ごもる私に代わって、高原がさらりと答えた。

「飲み会だよ。今は仕事で世話になってるんだ」

「へぇ、そんな偶然ってあるんだな。でも佳奈ちゃん、良かったね。やっと五年前のお礼ができるじゃないか。……んん?今、飲み会って言ったよね?こないだ佳奈ちゃんに会った時ってのも、確か飲み会の後じゃなかった?」

金子が何かを思い出そうとするように首を傾げた。

「あ、あはは……」

私は笑ってごまかそうとした。あの飲み会の後、私はここで、マスターだけではなく金子にも、高原の悪口をさんざんぶちまけたのだ。少し前の私であればばれても構わないという気になったが、今はそのことを高原に知られたくない。金子がその時のことをはっきりと思い出す前に、酔わせてしまおう――そう思った私は、お酒のボトルに手を伸ばしながら言った。

「とりあえず、金子君、今日は特別に私がお酒を作ってあげるから!飲んで飲んで」
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