純愛以上、溺愛以上〜無愛想から始まった社長令息の豹変愛は彼女を甘く包み込む~
「ん~、でも」
と、かおりは唇を尖らせた。
「まだ二人きりはちょっと自信がないっていうか……。ねぇ、カラオケ、佳奈、好きでしょ?行こうよ。高原さんも行くみたいだし」
「いやいやいや……。それなら私は、余計に行きたくないんだけど」
うっかり本音を普通に口に出してしまってから、私は慌てて向かい側の高原の様子を伺った。
前田と話していて、彼の耳に今の私の言葉は聞こえていなかったようだ。
「そんなこと言わないで、お願い!」
かおりは拝むように私に向かって両手を合わせる。
「やめてよ」
そう言いながら私は苦笑を浮かべる。
「……じゃあ、次の店で最後だからね。その後は私、絶対に帰るからね」
「分かった!恩に着る!」
ぱあっと満面の笑みを浮かべるかおりに、私は脱力しながら付け加えるように小声で言った。
「それから、今後このメンバーでの飲み会には、絶対に行かないからね」
「えっ、どうして?」
かおりは心底理由が分からないという顔をした。私と高原がどんな会話をしていたのか知らないのだから、そんな反応も仕方がない。
「どうしても」
後日じっくりと説明しよう。どれだけ不愉快な時間だったのかを。
「ふぅん……?」
かおりは首を傾げて私の顔をしげしげと見たが、何を納得したのか一つ頷くと私の肩をぽんっと叩いた。
「ま、とりあえず、行こっか」
そう言うかおりのご機嫌な顔を見ながら、私はふうっと小さなため息をついた。