純愛以上、溺愛以上〜無愛想から始まった社長令息の豹変愛は彼女を甘く包み込む~
高原は私を見つめてこう言った。
「だから今さらだけど、今ここで、君の気持ちを聞かせてほしい。今後、仕事以外で俺につき合うのは嫌だというのなら、君への個人的な連絡はやめる。君のことは諦めるよう努力する」
その後私たちは、どれくらいの時間見つめ合っていただろう。
その間息を詰めていた私は、長く細い息を吐いた。
静かな声で彼が語った五年越しの想いは、私の心の中に確かに届き、じわじわと染み込んだ。
それに絆されたわけではない。短い間ではあったが彼の気持ちに触れて、私に対する想いが本物であることや、彼が誠実な人であることは、もう十分に分かっていた。その気持ちに包み溶かされ、今の私はそんな彼をとても愛しく思っていた。
だけど……。
「高原さんが好きだと言っているのは、5年前の私なのでは?」
彼は首を横に振った。
「この数ヶ月の間、手の届く距離にいる君と関わる中で、あの頃よりももっと、ずっと君を好きになった」
それが本当なら……。
「金子君のことはもう、ただの友達としか思っていません。だって……」
私は膝の上のバッグをキュッと掴むと、おもむろに口を開いた。
「今は気になっている人がいるから」
「……そう、なんだ」
高原の声がかすれた。
これまで振り回されてばかりだったから、少しくらい私だって振り回したいと思った。最初から正直に答えてなんかあげない。
「数か月前に会ったんです、飲み会の席で」
高原が身じろぎする気配がした。
「その人といた時間は、とにかく過去最悪でした。無愛想で感じが悪くて、二度と会いたくないと思いました。それなのに、まさか仕事で関わることになるなんて思ってもいなかった……」
私は手元を見ながら次の言葉を探す。
カチッと金具を外す音がした。高原がシートベルトを外したのだと分かった。
うつむいたままの私の手を取ると、高原は私の指先にそっと唇を寄せながら、かすれた声で訊ねた。
「それって、俺の知ってる人?」
「……どうでしょう」
私は顔をそむけた。
その手をそっと伸ばし、高原は私の首筋に触れた。
「俺のことを、言ってるんだよな」
「さぁ……」
高原は私の方へ身を乗り出すと、その掌で私の顔を自分の方へ向かせた。
「言ってくれ。はっきり聞きたい」