純愛以上、溺愛以上〜無愛想から始まった社長令息の豹変愛は彼女を甘く包み込む~

約束の日。

着いたという連絡を受けて、私は部屋を出た。

アパート脇に止まる彼の車に近づいて行くと、宗輔が降りて来る。彼は私が手にした小さなバッグを見ると、照れくさそうな顔をした。

「準備、してきたんだな」

ぼそっと言われて急に恥ずかしくなり、私は目を逸らした。

「約束、したから」

宗輔は嬉しそうに言う。

「今日は佳奈とゆっくり過ごせるんだな。――さて、行こうか。映画もちょうどいい時間だ」

私は頷いて車の助手席に乗り込んだ。

映画を見た後、スーパーで一緒に食材などを見繕う。それを車に積み、どきどきしている私を助手席に乗せて、宗輔は自分のアパートに向かって車を走らせた。

「ここ?」

車から降りた私は、目の前の建物を見上げた。

これは――アパート、ではない。マンションと呼んだ方がしっくりくるような建物だ。

「ここの一番上の部屋。行こう」

宗輔は私を促しながらエントランスを入っていき、エレベーターのボタンを押した。

到着したエレベーターに乗り込みドアが閉まると、二人きりであることが急にいつも以上に意識された。私は、何か話さなければと追い詰められたような気持ちになる。

「ここ、マンションなのね」

「ま、一応ね」

「こんな立派な所に一人で住んでいるなんて。私の部屋なんか恥ずかしくて見せられないわ」

「ここは賃貸で古いし、立派ってほどでもないと思うけどね。――それより、どうしたんだ。緊張してるのか」

宗輔は落ち着かない様子の私に気がついて、身をかがめて私の顔を覗き込む。

「それはそうよ。だって……」

宗輔は私の額にキスして言った。

「引き返すなら、今のうちだぞ」

「……帰ってほしいのなら帰るけど」

「まさか」

そう言うと宗輔は私の手をぎゅっと握りしめた。

「一緒にいたい」

「えぇ……」

私もまた宗輔の手をぎゅっと握り返す。

それだけが目的なわけではない。けれど、この前の会話を思い出すと体中が熱くなってくる。

私ったら欲求不満なのかしら――。

今からもうそんなことを考えているなんて、宗輔に知られたくない。
< 95 / 138 >

この作品をシェア

pagetop