越後上布が紡いだ恋~祖母の着物を譲り受けたら、御曹司の溺愛がはじまりました~

「お祖母ちゃん、信じられないくらい元気だったわね」

 私の言葉に、母が苦笑いする。

「いつもはああじゃないのよ。話しかけても、わかってるのかわかってないのか、ずっとぼんやりしててね」

 母は常々そうぼやいていたから、私も覚悟していたのだ。でも今日会った祖母は、以前と変わらない明るくて朗らかな祖母だった。

「あなたが来たから、かしらね」
「あの着物のおかげよ」

 孫の私の顔を見たときより、着物を見たときのほうが、目に力があった。まるで何かの使命を思い出したみたいに。

「そう、かもしれないわね。今のことより、昔のことのほうが、よく覚えてるみたいだから」

 母は軽くうなずいてから、私に尋ねる。

「それよりあなた、あの着物本当にもらうの?」
「こうなったらしょうがないでしょう? 東京に戻ったら、とりあえず呉服屋さんに行ってみるわ」
「確かに専門家に見てもらうのは、いいかもしれないわね」

 認知症の祖母が言っていることだからと、母は訝しんでいるのだろう。百万円以上という話も実際どこまで本当かわからないのだ。

「正直価値なんてないほうがいいわ。そのほうが気楽に預かれるもの」
「あら、値打ちものなら、売ってもいいのよ。ゴミ屋敷掃除の正統な報酬なんだから」

 母はきっと優しさで言っているのだろう。
 私が祖母の着物に、責任を感じなくて済むように。

「そんなわけにはいかないわよ。着ないにしても、ちゃんと保存しておくわ」

 自分で言い出したくせに、私の答えを聞いて母はホッとした顔をした。嬉しそうに笑いながら、私の背中をトントンと叩く。

「いい孫じゃない。お祖母ちゃんも、きっと喜ぶと思うわ」
< 10 / 40 >

この作品をシェア

pagetop