越後上布が紡いだ恋~祖母の着物を譲り受けたら、御曹司の溺愛がはじまりました~
 歩いて十五分ほどの距離にあった、平仮名で『かきうち』というその店は、確かに気軽な雰囲気だった。明るく入りやすく、よくある古着屋にしか見えない。

 しかし足を一歩踏み入れると、たくさんの着物に迎えられた。値札を見れば、千円や二千円で確かにリーズナブルだ。売り場も広く、畳スペースまである。

「いらっしゃいませ」

 女性に声を掛けられ、私はギョッとしてしまう。こういう店のスタッフなのだから、着物を着ているのは当然なのだが、その姿はよくあるイメージとはかけ離れていた。

 クリア素材のサンダルにレースの付け衿、帯周りにもリボンがあしらわれ、アバンギャルドと呼ぶに相応しい装いだったのだ。

「あの、系列店のお店から、紹介されたんですけど」

 私が戸惑いながらチラシを見せると、店員はふふっと笑った。

「あぁ父に言われて……。ご親族の着物か何か、売りにいらっしゃったんですか?」
「どうして、わかったんです?」
「父は商売より、若い人に着物を着て欲しいんですよ。手軽に着物が買えるよう、この店をオープンしたくらいで」

 女性は軽く店内を見回してから、こちらを向いて提案する。

「よかったらお持ちの着物、着付けましょうか?」
「え、今からですか?」
「お時間さえよろしければ、こちらには長襦袢も帯もありますから。着てみて、気に入っていただければ、お買い上げいただいてもいいですし」

 迷ったものの、こんな機会はないかもしれない。私は女性に頭を下げていた。

「じゃあ、お願いします」

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