越後上布が紡いだ恋~祖母の着物を譲り受けたら、御曹司の溺愛がはじまりました~
 女性の着付けは、まさにカルチャーショックだった。
 衿芯を入れた麻の長襦袢を着せられたら、マジックテープのベルトを締めるのみ。あとは祖母の着物を着て、腰紐を結んだら、伊達締めもしない。

 帯板に柔らかめの帯をプリーツを作りながら巻いて、最後に洋服用のベルトを締めて終わり。全部で五分も掛からなかったんじゃないだろうか。

「あの、これでいいんですか? なんか着物の帯って、こう、背中で丸くなってません?」
「それは、お太鼓結びですよね。あれをちゃんとやろうとすると、難しいですし、大変ですから。これなら簡単だし、苦しくないでしょう?」

 言われてみれば、全然締め付けられていない。成人式の時、タオルや手ぬぐいで補正され、ものすごく息苦しかったのが嘘みたいだ。

「本当、ですね。すごく、楽です」
「でしょう? 私は仕事柄一日中着物着るんで、楽じゃなきゃ無理なんです」

 女性は明るく笑い、目から鱗が落ちた。
 伝統に囚われず、どんどんアレンジして、カジュアルに着物を楽しむ。着物だからと、畏まる必要なんてなかったのだ。

「今着ておられる着物、めちゃくちゃ軽いし、とてもいいものですよ。それなら洋服感覚で楽に着れると思います」
「そう、かもしれませんね。ベルトも手持ちのものが使えそうだし」
「ベルトの代わりに、リボンを使っても可愛いですよ。うちは帯もたくさん取り扱ってますから、柄や色も気に入ったものがきっと見つかるはずです」

 商売上手な女性に言われて、色別に吊してある帯を眺め始めた。今は白の帯を締めているが、ピンクや赤も合うかもしれない。

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