越後上布が紡いだ恋~祖母の着物を譲り受けたら、御曹司の溺愛がはじまりました~
「こっちです。ご足労いただきありがとうございます」

 改札を出たら、哲朗に声を掛けられた。もちろん今日も着物姿だ。
 白の開襟シャツに黒の着物というモノトーンコーデで、彼の周囲だけ淡く光っているように見える。空気が違うというか、オーラに包まれていて、道行く人が皆振り返っていくのだ。

「こちらこそ、貴重なお時間取っていただいて、ありがとうございます」

 できるだけゆっくり、落ち着いた低い声を出すように努める。そうでないと気分の高揚が、そのまま伝わってしまいそうだったからだ。

「いえいえ、取材いただけるなんて光栄ですよ。僕なんかで良かったんですか?」
「もちろんです。すごく真摯に着物と向き合っておられるのは、この間もすごく伝わってきましたから。もっとお話したいと思っていたんです」

 言ってしまってから、これでは哲朗に会いたいだけみたいだ。私は赤くなり、大慌てで付け加える。

「あ、その、仕事として、です」

 哲朗はわかってますという感じで軽く会釈し、ゆっくり歩き出した。自宅はすぐ近くというだけあって、五分ほどで彼の住むマンションに着いた。

 一際目を引く外観は、いかにも哲朗の居住地に相応しい。大きな窓ガラスはまるでパズルのようで、マンションの存在自体がアート作品みたいだ。共用エントランスも照明や緑がセンス良く配置され、洗練されたデザインが際立っている。

「素敵なお住まいですね」
「個性的でしょう? ひと目見て気に入ってしまったんですよ」

 哲朗に案内された部屋もまた、一風変わっていた。間取りが凹型になっていて、片方に水回りが集まり、もう片方は着物専用クローゼットが壁のように部屋をふたつに分けている。

「中見て見ます?」

 クローゼットの扉を開けると、桐の引き出しがたくさん。全ての着物が一枚ずつ、和紙のようなたとう紙に包まれて、大切に保管されている。

 哲朗はその中から数枚の着物を取り出し、背の高いハンガーラックにかけてくれた。色彩豊かな着物がカーテン越しの光を浴びて、より一層鮮やかに輝く。

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