越後上布が紡いだ恋~祖母の着物を譲り受けたら、御曹司の溺愛がはじまりました~
「華やかですね。男性向けの着物だから、もっとシンプルでベーシックな感じなのかと」
「せっかく着るならいろいろ楽しみたいですから。これは菊、こちらは唐草柄です」

 どちらも素敵だったが、片方の着物は一部生地が違うのに気づいた。下前のあたりだから、実際に着物を着たらほとんど目立たないとは思うが、継ぎをあてたのだろうか。
 哲朗は私の視線に気づいたらしく、着物に触れながら説明を加えてくれる。

「ここは生地が足りなかったので、近い色に染めた別布を付けたんですよ」
「えっ、染色もされるんですか?」
「はい。戦前の古い着物には良い物が多いので、仕立て直して着ています」

 そこまでするだなんて、本当に手が込んでいる。哲朗がどれだけの時間、これらの着物と向き合ってきたかと思うと、心が震えた。
 ここにある着物は、ただ美しいだけじゃない。哲朗の知恵と工夫が結実したものだ。高い技術があるからこそ、アンティークを現在でも通用させられる。

「すごいですね……」

 私は圧倒されてしまい、言葉が続かなかった。哲朗のひたむきさに触れ、まだ彼の着物に対する情熱の、ほんの一端しか知れていなかったのだと恥ずかしくなる。
 呆然とする私を見て、哲朗ははにかみながら話を続ける。

「こういう柄物を着る時は、無地帯にすると引き立つんですよ。淡い色を合わせると、礼装っぽくなりすぎるので、濃い色を選ぶのがおすすめですね」

 まるで普通のファッションみたいだ。着物だからとかしこまらず、服のひとつという感覚で、自由に和装を楽しんでいるのがわかる。

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