越後上布が紡いだ恋~祖母の着物を譲り受けたら、御曹司の溺愛がはじまりました~
「やっぱり()が良いでしょうね。夏物の王道ですから」
「涼しいってことですか?」
「はい。生地自体に透け感があるんですよ。素材もいろいろですが、正絹が一番、ってこのパステルグリーンの訪問着なんてどうです?」

「綺麗ですね、花の刺繍も豪華ですし」
「うん、堤さんの顔立ちにも似合いそう。帯締めはコレかな? 金糸や銀糸が入ったもののほうが、格調が高いので。きっと良いアクセントになってくれると思いますよ」

 美里は次々と必要な物をそろえ、手早く着付けをしてくれた。私はボブカットなので、髪型をどうしようかと思っていたのだが、サイドを編み込み、パールとビーズのヘアアクセサリーを付けてくれる。

「自分で言うのもなんですが、すごく素敵」
「でしょう? これならどこへ行っても恥ずかしくないですよ」

 胸を張った美里は、からかうような笑みを浮かべて続ける。

「それにしても山崎さんとデートなんて、羨ましいです」
「え? いえ、別にデートってわけじゃ」
「何言ってるんですか、ちょっとそのへんでお茶するとかじゃないんですよ? 大事な相手じゃなきゃ、そんな場所予約してくれませんよ」

 普通なら美里の言葉に同意するだろうが、健司は同じようなことをして、あっさり私を振ったのだ。私が複雑な表情を浮かべていると、彼女は励ますように軽く肩を叩いた。

「大丈夫ですって。山崎さん、うちのお客さんからも人気で、たまに声を掛ける人もいるんですけど、誘いを受けたところなんて見たことないですから」

 美里に気を遣わせてしまった。私は申し訳なく思いながら、口角を上げる。

「そうですね。こんなに綺麗にしてもらったんですから、とにかく楽しんできます。あ、そうだレンタル代は」
「今回は良いですよ。堤さんの記事のおかげで、お客さんも増えましたし。デートのお話、また聞かせて下さいね」

 パチンとウインクされ、私は頬を染めて頭を下げたのだった。
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