越後上布が紡いだ恋~祖母の着物を譲り受けたら、御曹司の溺愛がはじまりました~
「あの、今日はどうして、誘ってくださったんですか?」
「ご迷惑、でしたか?」

 哲朗が不安そうに眉をひそめ、私は慌てて手を左右に振った。

「いえ、もちろん嬉しかったです」

 ただ――。

 そこから先を言うべきかどうか迷ったけれど、私は膝の上で握りこぶしを作り、真っ直ぐ哲朗のほうを向いて言った。

「お仕事として、お付き合いいただいていると思っていたので。少し戸惑ってしまって」

 哲朗はハッとして、なぜか落胆したような表情を浮かべた。しばらく目をさまよわせていたかと思うと、突然深く頭を下げる。

「すみません。仕事相手から急に誘われても、困りますよね。考えなしでした」

 思ってもみない反応に、私は混乱してしまい、急いで正直な気持ちを付け加える。

「え、あの、迷惑とかじゃないですよ? へんに期待したくないだけで」
「じゃあ、恋人がいらっしゃるわけじゃ」

 私が必死に首を振ると、哲朗が大げさなほどに脱力した。

「よかった。堤さんは素敵な方だから、てっきり」
「私は、山崎さんが思ってるような女性じゃないです」

 こんな言い方、よくないのはわかっている。明らかに哲朗は好意を向けてくれているのだから、余計なことを言う必要なんてない。

 でも黙ってはいられなかった。哲朗に失礼だし、何よりフェアじゃない。自分でも馬鹿だと思うけれど、幻滅されるかもしれないけれど、それが私なのだ。

「この前も、彼氏だと思っていた人に、こっぴどく振られたばかりなんです。私、浮気相手だったみたいで」

 どうにか笑顔を作り、軽い冗談のように明るく言ったつもりだったが、哲朗は真剣な瞳で私を見つめた。その眼差しはどこまでも温かく、寄り添われているように感じられる。

「無理して笑わなくて良いですよ」

 哲朗は動揺することなく、穏やかな物腰で続けた。

「堤さんが傷ついているなら、僕はちゃんと受け止めます。きっとその彼には、堤さんの魅力が伝わってなかったんですよ」

 私は哲朗の安らぎに満ちた言葉に驚き、同時に感激もしていた。男性からこんな優しさを見せられたことは生まれて初めてだったのだ。

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