越後上布が紡いだ恋~祖母の着物を譲り受けたら、御曹司の溺愛がはじまりました~
 見つめ合っていた私たちは、同時に顔をほころばせる。

「もうずっと、いつ打ち明けようか考えていたんです」

 現実感がなくて、気持ちがふわふわする。初めて哲朗に会ったとき、こんなに綺麗な人がいるのかと驚き、その彼が今私を愛おしそうに見つめているのだ。

「なんだか、信じられません。山崎さんに比べたら、私はすごく平凡だから」
「何言ってるんです。堤さんのおかげで、呉服関連事業を立ち上げられることになったんですよ」
「え、じゃあ」
「はい、父をもう一度説得しました。堤さんの記事が反響を呼んでるのを見て、父もビジネスチャンスだと思ってくれて」

 私はとっさに声がでなかった。哲朗に告白されたときよりも嬉しいくらいで、目頭がじんわりと熱くなる。

「良かった、本当に良かったですね」

 哲朗はそんな私を見て、深く感じ入った様子で言った。

「堤さんのそういうところが、好きなんです。他人のことなのに真剣になってくれて、今もすごく喜んでくれて」
「私のしたことなんて、たいしたことじゃありませんよ。山崎さんが熱意を持ってプレゼンしたから、お父さんに伝わったんだと思います」

 私が微笑むと、哲朗は照れた様子で答える。

「潜在顧客層を新規開拓し続けていくことが、何よりも重要だとは話しました。幸い『ファシール』では一千万人以上の顧客データベースがあるので、それを利用して」
「ちょ、待って下さい、『ファシール』ってあの? カタログ通販の最大手ですよね?」
「ご存知だったんですね。そうです、僕の父親は『ファシール』の社長なんですよ」

 哲朗が事もなげに言い、私はただただ驚いていた。うちの会社どころか、健司の会社とも比べものにならない、東証一部上場の大企業だ。

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