越後上布が紡いだ恋~祖母の着物を譲り受けたら、御曹司の溺愛がはじまりました~
 次の日、関越自動車道と上越線に挟まれた、市民病院に向かった。病室に入ると、祖母は笑顔で迎えてくれる。

「ふっさしねっかねー?」

 もう随分悪いと聞いていたが、祖母は意外と元気そうだった。私はちょっと拍子抜けして、祖母のか細い肩に手を置く。

「うん、久しぶり。ご無沙汰して、ごめんね」
「ええっちゃよ。奈央ちゃんは、まぁず東京でがんばってるしね」

 がんばってる――。そう言われると胸が痛い。
 契約社員の私は結果が全て。下手をしたら来年にはクビになってしまう。次の企画を考えろと言われているが、まだいいアイデアも浮かんでいなかった。

 私は曖昧に笑いながら、当たり障りのない近況報告をする。祖母はニコニコしながら聞いてくれ、ひと息ついたところで母が切り出した。

「それでね、お祖母ちゃん。奈央が家の掃除をしてくれたんだけど、こんなものが出てきたらしくて」

 母があの着物を取り出すと、祖母の目の色が変わった。

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