桜記念日
何これ。

いつの間に、こんな手紙を書いていたのだろう。

ずるい人だ。

そういう不器用さが、あの人らしいが。

大学入学をきっかけに、私が実家を出て、大学近くのアパートで一人暮らしを始めた。

私がいなくなった寂しさがストレスとなったのだろうか。

2人がいた家に、ポツンと1人残されたのだ。

……もし私が家に居たときから、その兆候に気付けなかった可能性も、無きにしもあらずだ。

……悔いるのは、もう止めにしよう。

明日、挙式の最後に読む手紙は、この手紙への返事にすると決めたのだ。

「明日の挙式、お父さんとお母さんの写真持って行くからね。

絶対来てよね。

……娘の晴れの日に遅刻したら、許さないから」

土を踏む音で、ふと振り返る。

低いアルトの声が鼓膜を揺らした。

耳心地の良い、旦那の声だ。


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