桜記念日
「ったく、理名ったら。

さっきの言葉、そのまま返すようで悪いけど、そういうこと、さらっと言うから反則だよな。

やっぱイチャイチャしちゃダメ?

私を抱き上げて車の助手席に乗せてくれた彼は、
耳元でそう言ってくる。

「明日早いんだから。
遅刻したらどうするの!

ダメったらダメ!

イチャイチャはお風呂入ってる間だけだからね」

「ありがと。

理名の可愛い顔、堪能しとこう」

世の中のカップルって、挙式前日はこんな感じなのだろうか。

挙式前日にも関わらずいつものペースでイチャイチャしていそうなカップルは、すでに夫婦になっている。

3組とも今や立派な人の親だ。

ちょっと羨ましい。

私も、彼女たちのような人の親になれるだろうか。

不安は尽きない。

おっと、いけない。

暗い顔をしていては、心配した両親が化けて出かねない。

景気づけに、軽くパチン、と音を立てて頬を叩いた。

明日は最高の日になりますように。

澄み切った夜空の星と、開花を待ちわびる桜の蕾に、そう祈った。


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