月と空と太陽と
「昨日はノートありがとうなー。
それはそうとさ、月子 俺たちの練習してるとこ見てただろー。」
翌日 前の席の蒼空が授業の合間に 話しかけてきた。
見てたのがバレていたなんて。
月子は思わず恥ずかしくなり少し顔が赤くなる。
「べつにっ 見てたっていうか、見かけたっていうか。ちょうど目に入ったの!」
ニヤニヤする蒼空に言い返す。
「なんだよー。俺がかっこいいから見てたんだろ?照れんなよー。」
確かにかっこいいけど。
口が裂けても言わないけれど 実際思っている事だ。
「ふーんだ。そんなんじゃないですからねっ。」
ややムキになって言い返す。
「あっ、もしかして太陽のこと見てたとか?なんだよー そういうことかよー 早く言えよなー。」
なんでそんな話になるんだ?
「あのね、ちがうって。」
月子が反論しようとしても 蒼空は ハイハイ、と受け流して相手にしない。
そうしているうちにチャイムが鳴り、先生が入ってきた。
次の授業が始まる。
蒼空もかっこよくて人気だけど、太陽もちがうタイプでかっこいいと有名だった。
蒼空はふわふわした茶色い髪に、笑った顔が可愛くて 人懐っこい犬みたいだった。
誰にでも気軽に話しかけるし、男女問わず友達が多かった。
太陽は どちらかといえば無愛想で、きりっとした涼しい目元のクールイケメンだ。
女子にも隠れファンが多いのだが 話しかけようにも人を寄せ付けない壁を感じた。
二人とも陸上部で 陰ながら練習風景を眺めてる女の子が多いらしい。
数年前の私がそうだったのだから、女の子達の気持ちはよくわかった。
授業中、蒼空の背中をボーッと見つめる。
細いくせに筋肉質なのよね。
やっぱり男の子なんだなー。
私が 幸田くんのこと 気になってるって勘違いしてるのかな……嫌だな。
月子がそんなことを考えていたら いきなり蒼空が後ろを向いた。
『太陽のこと協力してやろうか?』
先生に聞こえないよう、小声で囁いてくる。
月子は 思わず蒼空の腕をビシビシ叩き
『なにバカなこと言ってんのよっ。』
と、小声で返答し蒼空に前を向かせる。
はぁ……。
協力って なによ…。ため息が出る。
蒼空にとったら 私なんてただの『友達』
私が誰と付き合おうと関係ないものね。
寂しいけれど、これが現実。
知られてはいけない 彼を想う気持ち。
だって 今の良い位置を失うことになるから。
月子は 複雑な思いで蒼空の背中をまた見つめた。