雷乙女と狼公の結婚 王子の元恋人が婚約破棄を3回食らった公爵と結婚するとこうなる


「しかしトリエルノ嬢よ、いったいどういう経緯でルノー殿下と親しくなったのだ? 世間の者はみな口を揃えてあなたをルノー殿下をたぶらかしたと言うが、その実そうではなかろう」
 宮廷からフセルフセス領へと向かう馬車の中、トリエルノの正面に座った彼女の夫は確信に満ちた口ぶりで言った。善は急げとバラント邸を後にした婚約者たちはあっという間に婚姻届けを作りそのまま国王に提出したので、彼らは既に正式な夫婦であった。国王の傍に控える宮廷侍従長以下、宮廷人たちがその早さに驚きあきれたのも無理ないことだった。その上、シルハーンは自ら筆を取り、戻り次第結婚式を挙げると記して自領に早馬を走らせた。
「なぜそうお思いに?」
 妻となった女が首をかしげて見せると、その夫たるシルハーン・フセルフセスは鋭い犬歯をのぞかせいたずらっぽく笑う。
「決まっている、狼は目が良いのだ。建国神話に曰く、狼の目は真実を見抜く目を持っていた。その目でもって魔力の沸き立つところを捜しだし、ひと声吠えるとそこに轟雷が落ちて囚われていた精霊たちを解放した……」
 まあ実際の建国神話はここから始まるのだが、と狼公の異名をとる男は肩をすくめて改めて妻を見つめる。
 バラント家の馬車よりも2段階ほど上質なクッション張りの椅子に背を預け、トリエルノは目を閉じて思い出話を始める。
「ルノー殿下は私が困っているところを助けてくださったのです。昔から、生まれ持った魔法や、自宅を壊してバラント家に預けられたことで揶揄されることも多く」
 雷乙女の異名をとる令嬢は苦笑して続ける。
「殿下がそれとなく庇ってくださいました。殿下も王族として、戦闘向きの強力な魔法を生まれ持っておいでですから、思うところがあったのでしょう。私がお礼に(うかが)ったのをきっかけに少しずつ……」
 そこでひと呼吸して、トリエルノはゆっくりと首を横に振った。今となっては美しい恋の思い出で、不思議と胸は痛まなかった。
「殿下は王族、それに比べてバラント家など取るに足らぬ新興貴族ですが、王侯貴族の責務として共に戦う約束ができたことがあの時の私には本当にうれしかった」
 そこで言葉を切って、トリエルノは苦笑する。
「まあ、フセルフセスの領主夫人などというのも私には分不相応かもしれませんが」
 フセルフセス公爵家は国内でも有数の名門貴族である。同じ貴族とはいえ、自身の領地を持たないような新興貴族出身の娘が嫁ぐとあってはフセルフセス内外からそれを批判する声もあるだろう。しかしその頭目たる男は呆れたように言った。
「領外の者らはともかく、我がフセルフセスがどういう家でどういう領地か、俺を見ていればわかるだろう」
 言われてトリエルノは社交界の二大問題児の片割れを見つめ、少し視線をそらしてからおずおずと口を開いた。
「……人を褒める時には大きな声で、貶める時には同じくらい大きな声で?」
 初めて参加した夜会でこの狼のような青年が言っていた言葉だ。途端にあの日の青年のくちびるが弧を描いた。
「うむ、まさしくだ! 俺は形だけになった慣習や必要以上の腹の探り合いは好かんし、他人にやたらと名門と褒めそやされることも好きではない」
 そこで公爵は言葉を切り、馬車の外に目を向ける。馬車は既に王都を出てフセルフセス領へと向かっていた。王都から伸びるディプス大街道の両脇には庶民向けの宿が並び、その宿場町が途切れると農村地帯が広がり、地平へと沈む太陽に赤々と染められている。それを見つめるシルハーン・フセルフセスは物憂げに瞬きを一つしてから、トリエルノに向き直り彼女の手を取った。
「故にトリエルノ嬢、あなたにはどうか委縮せず、俺の仕事を手伝って貰いたい」
 そう言うと、フセルフセス領主は妻の手を自身の額に押し頂いた。
 一瞬驚いたような顔をしたトリエルノだったが、ふた回りほど大きな夫の手を握り微笑んだ。
「……(こう)、今だから申し上げますが私、18歳で初めて夜会に出た時に公の件の言葉を聞いて心底痛快でした」
「ハ! 貴女は多分、我が領に向いている。これからどうぞよろしくお願いする」
 年若い領主はそう言って微笑み、ふと思い立ったように隣でだんまりを貫いていた若い執事に問いかけた。
「しかしフセルフセスに戻ってすぐ結婚式、などと早馬に(たく)したわけだが、もしかせずとも俺は帰り次第、城の者たちにめちゃくちゃ怒られるのではないか?」
 問われて、シルハーン・フセルフセスの乳兄弟で幼馴染だという執事のカルは無感動な目で「(こう)はご自身のことが良くお分かりで」と答え、それから領主の妻に向き直って真面目腐った顔になった。
「トリエルノ様も今後、シルハーン様のこの勢いに振り回されることがあるかとは思いますが、やってられないとお感じになったら遠慮なく退避したり、文句を言ってください」
 お手数おかけします、と黒髪の執事は頭を下げた。その歯に衣着せぬ物言いに、フセルフセル領主夫人はついに声を上げて笑った。

***

 陽が沈んでしばらくしてからたどり着いた宿場町の一番良い宿に部屋を取り、翌朝そこを出ると一行は馬車から騎乗用に調教した魔獣に乗り換え、歩を早めて夕方にはフセルフセス領にたどり着いた。
 領内は道と田畑を分けるように糸杉が整然と立ち並び、緑に萌える大地の向こうに小高い丘がある。ダンジョン兼魔法石採掘場の、そのさらに向こうには森が広がっている。
 フセルフセス領は巨大なダンジョンと森を挟んで隣国に接する国境の領地である。ダンジョンからは、魔力を多分に含み世界各国で資源として重宝される魔法石が採掘される。そのような国の要地を王家でなくフセルフセス公爵家が預かっているのは、両家の信頼関係の証明でもあった。
「ダンジョンは魔法石も取れるが、魔獣の住処でもある。そこの警護が騎士団の仕事のひとつだ」
 領主はそう言って、自身の名代として騎士団と戦陣に立つ己の妻と目を合わせる。シルハーンの瞳を見つめて、トリエルノは固い声で忠告した。
「……確かに私は審議会の折、一人で魔獣を倒しました。けれどそれも5年前のことです。それだけご承知おきください」
「まあ、採掘場の警備以外にも騎士団の仕事はある」
 分かりました、とトリエルノが返事した。
 途中であちらこちらに寄り、城下町を通り、人々に声をかけられ、彼らがようやく山の中腹にあるフセルフセル領首府たるフセルフセス城にたどり着く頃にはすっかり日が沈んでいた。
「おかえりなさいませ城主様、そしてようこそトリエルノ様」
 城内入り口の警備兵、そして使用人たちが城主一行を迎えたが、その二言目は苦言であった。
「シルハーン坊ちゃま、毎度毎度申し上げておりますが何の相談もなしに事を進めるのはおやめください」  
 年かさの執事がため息をつき、恰幅の良い中年のメイドもそれに同意する。
「執事長の言う通りです。普通、挙式の準備は一日では終わりません。坊ちゃま、こういったことはまず一言ご相談をなさってからにしてください」
「まあそれはそうとして城内スタッフ総動員で式の準備は済ませましたが!」
「トリエルノ・ダズリン女伯爵様、この通りマイペースで知られた我らがシルハーン様ですが、男ぶりと仕事ぶりは随一ですのでどうぞ末永くよろしくお願いいたします」
 公爵があれなら執事もああで、そして城の使用人たちもこうであった。
「……皆さま私のことをご存じで?」
 トリエルノが唖然としながら首をひねると、もちろんですと返ってくる。
「審議会での戦いぶりを聞いたシルハーン様が、あなた様を我が領に招聘したいと散々仰っていましたので」
「我が領にて魔獣退治に従事していただきたい、と。それはもう凄まじい意気込みで」
「我々はトリエルノ様がおいでになるのを心待ちにしておりました」
 ようこそフセルフセスへ、と皆が声をそろえた。どうか委縮せず、というシルハーンの言葉を思い出したトリエルノの口元は自然と弧を描いた。ここまでくるともう委縮するのが馬鹿らしいというのが彼女の正直な感想で、一歩前に出て、使用人たちに笑いかけた。
「はじめまして。トリエルノ・ダズリン女伯爵です。どうぞこれからよろしくお願いします」
 トリエルノは深々と頭を下げる。ぎょっとしたのは使用人たちである。
「どうぞ頭をお上げになって、トリエルノ様!」
「ささ、外で長話というわけにも行きません。お入りください」
「夕食の準備が整っていますので、まずはお食事を」
「湯殿と寝室の準備もできております」
 あれよあれよと小食堂に通され食事を終えると、そのまま風呂と着替えを済ませて寝室に通された。
「ここが貴女の寝室だ、トリエルノ嬢。俺の寝室はその二つ隣のあの一番大きい扉、何かあったら遠慮なく声をかけてくれ。……この城が今日からあなたの我が家だ」
 フセルフセス公爵自らトリエルノを彼女の寝室まで案内してやると、周囲にいたメイドたちや執事のカルもこの新しい城の住人に声をかけた。
「環境が変わって驚かれることも多いと思います、何か不調を感じた際には遠慮なく仰ってください」
「我が城には男性医師だけでなく女性医師もおります。ご相談の内容は決して口外しませんのでご安心を」
「よく眠れるようにお部屋にアロマを置いてあります」
「枕も数種類備えておりますので気に入ったものをお使いください」
 その様子に安心したようにシルハーン・フセルフセスは静かに笑い、背を丸めて妻に視線を合わせた。
「トリエルノ嬢。ゆっくり休んでくれ」
 ではな、とカルを連れて自分の寝室に向かおうとした夫だったが、トリエルノは彼の腕をくいと掴んでその足を止めさせた。
「あの、公、フセルフセス公」
 しかしそう声をかけたものの、ばつが悪そうに視線をそらしてしまう。シルハーンは巨体を屈ませ、小柄な伴侶に視線を合わせた。
「どうかしたか? 我が妻よ」
「……その、昨晩のお約束を覚えて、おいでで?」
 僅かに頬を染めたトリエルノにシルハーンは目を見開き、喜色を滲ませながらもそれを抑えて彼女の手を握った。
「気持ちは嬉しいがさすがに疲れているだろう? 俺に気を使ってのことであればその必要は」
「いえ、私がそうしたくて、あの……公にはご迷惑かもしれませんが」 
 公爵の大きな手をきゅっと握り返してトリエルノがはにかんだ。
 メイドや執事たちが黙ったまま互いの顔を見合わせ、黙ってこの場を退くべきか目配せで相談し始める。しかしその横でカルは額を覆って天を仰ぎ、主人とその妻を咎めた。
「夜更かしはいけませんお二人とも。明日は結婚式なんですよ!」
 顔を見合わせていた者たちはコクンと頷きその場を去ろうとするが、「だって!」という貴人たちの拗ねた子供のような声で自分たちの予想が大きく間違っていたことを悟った。
「昨晩宿で公とお約束したんですよ、『突撃!』のリベンジ戦をするって!」
「ああ、明日にでも受けて立つと言ったのは俺だ! 我が妻相手に約束をたがえるわけにもいくまい!」
 乳兄弟で幼馴染で執事の男はため息をついて、子供じみたことを言う貴人たちを叱りつける。
「このカル・エーテク、26年生きてきて宿屋で“少々声を抑えていただけると……”などと言われたのは初めてです! そもそもどうして移動の前夜にあんな時間のかかる盤上遊戯などしてしまったのですか!」
 正論で咎められ、二人はすっかり弱って言い訳を重ねる。
「ごめんなさーい、だって今時代に『突撃!』を一緒に遊べる方は貴重なんですよ? そもそも専用の遊戯盤が置いてあるのも貴重なことで……!」 
「カル、分かるだろう! 我が妻たるトリエルノ嬢が『突撃!』プレイヤーだった上に真っ先に糧食部隊を襲撃しに来た時の嬉しさが!」
 使用人たちが揃って嘆息した。それは成熟した大人として夫婦になったシルハーンとトリエルノの子供じみた態度に対する呆れというよりも、そんな子供じみた彼らを気に入って主と仰ぐ自分自身へのため息であった。
「……ワンゲームだけですよ、お二人とも。終わり次第さっさと寝てください」
 つき合いきれないとばかりに、しかし僅かに笑みを滲ませて執事カルが言うと夫婦は喜色満面で互いの寝室の間に設けられた扉に駆けだした。
「それじゃあ皆さま、おやすみなさい! また明日!」
「うむ、皆一日ご苦労だったな。トリエルノ嬢よ、ここがいわゆるリビングルームだ。今やもっぱら俺の趣味部屋になっているが、今日からは貴女の部屋でもある。好きに使ってくれ」
 無邪気な二人を見送り、使用人たちは互いの顔を見合わせ苦笑し、それぞれエプロンを外し、シャツの首元を緩めて解散した。
 一方、夫婦の居室では卓上に置かれた遊戯盤を挟んでソファに腰かけた2人がさっそく『突撃!』を開始していた。元はと言えば、軍事演習や軍隊指揮について学ぶために考案されたゲームだが、この天下泰平のディプス王国ではすっかり古臭いゲームとなり、プレイヤーは数えるほどである。
 トリエルノが本隊のコマを手に取って動かし始める。
「これは祖父母の好きなゲームだったんです」
 そうだったか、と優しく返事してシルハーンもコマを動かす。ふとフセルフセル公爵夫人が思い出し笑いをした。
「真っ先に糧食部隊を襲撃したのが嬉しい、だなんて」
「俺は本気だぞ。組織の長に立つ者として、優秀な人材はいくらでも抱え込みたいし面白く有効そうな作戦はいくらでも実行したいが、金と食料が無くては上手くいかん。そのあたりを分かっている者が俺の妻で、有事の際には領主名代として騎士団を指揮し、俺が所領を離れる際には領主代理になってくれるというのは心強いことだ」
 感謝する、とフセルフセル公爵はトリエルノに深く頭を下げた。
「正直、この結婚はいくら何でも即断即決が過ぎた。いかに陛下の推薦であったとしてもな」
 そんなことは、とトリエルノはコマから手を離した。公爵は同じ姿勢のまま続ける。
「俺は元より貴女をフセルフセス領に招くつもりだったが、貴女は違う。心の準備をする時間もないまま貴女を妻と定め、正式な書状まで作り、こんな国境の辺境の地まで連れてきてしまった」
 申し訳ない、と言う響きは切実だった。
「正直、夫婦としての実感もあまりないだろう。直接話したのなぞあの茶会が初めてだからな」
「まあ夫婦の実感がないのは否定しませんが」
 いくらかの沈黙があって、公爵夫人は静かな声で言った。
「……どうぞ顔を上げなさって、我が公」
 夫と目が合うと、新妻は「私は公に助けていただきましたから」と苦笑し、再び盤上のコマを動かし、続けてサイコロを振った。その結果を受けてトリエルノの指揮する軍が大きく前進してシルハーンの軍に食い込んだ。
「バラント家から除名になってダズリン女伯になった……のは良いですが、私が10代の次期を過ごしたダズリン領と屋敷は全て売りに出しましたから。あの時私は一夜を超す屋根も持たなかったのですよ」
 そうだったな、と言いながらシルハーンは敵軍の食い込んだ自軍中央を後退させる。転がしたサイコロがアタリの数字を出すと、続けて自軍の左右を突出させた。
「ダズリン伯爵家と言えば王家の狩猟番を務めた由緒ある家だ。その領地と屋敷が相続されず売りに出されると聞いたときには驚いたものだ」
「噂になるのが嫌で周囲に話が漏れぬようにしましたが、その手続きをしたのは私です。母は私が幼いころに亡くなり、特に爵位の相続権があるのは長女の私でしたから。あの広大な領地と屋敷を管理するのは大学生になったばかりの私には手に余ったので、不動産は売りに出して金銭にし、それとダズリン伯爵位を私が相続しました」
 トリエルノはサイコロを転がし、出た数値にガッツポーズをした。彼女の指揮する軍中央は突出しすぎないように足並みをそろえ、その左右では敵軍の包囲を避けようと奮戦している。
「父に愛想をつかされてダズリン領預かりになって、そこで祖父母にこの生まれ持った雷の魔法の扱いを教わりました。思い出の地を手放すのは心が痛みましたが、教わったことは私の中にちゃんとあって、私の魔法はあの懐かしい日々と研鑽の証です。それを必要として認めてくださる公を伴侶にできたというのは、嬉しいことです」
 それに、とトリエルノは真正面に座る夫を見据えた。
「一緒に戦うと言ってくださって、嬉しかった。あなたにとって当然のことであったとしても」
 そこまで言って彼女があくびをすると、シルハーンは微笑んで立ち上がる。
「ゲームはこの状態で保存しておくから、今日はもう休むと良い。送っていくから」
 トリエルノの傍まで寄って手を差し出すと、瞼の下がり始めた彼女はくちびるの端をゆるゆると持ち上げながらその手を取って立ち上がった。
 淡い緑の敷物が敷かれた廊下を恐ろしくゆっくり歩きながら、公爵は妻の手を引いてぽつぽつと語った。
「……俺も幼い頃は危ない魔法を使うと同年代に陰口を言われて、理解のある者たちが揃うフセルフセスという恵まれた環境にいながらも傷ついたものだ。2度目の婚約破棄も、この地のあり方やそれを治める者のあり方をうまく理解して貰えず、それもそれで悲しかった」
 トリエルノは子供のようなあどけない顔で、もの寂しげな夫の横顔を見上げた。傍若無人、自由そのもの、孤高の狼、マイペース、貴族の中の貴族シルハーン・フセルフセス。そのどれもが真実だが、それだけではないのだ。
「……私たち、似てるんですね」
 そう囁いてトリエルノが握る手に力を込めると、シルハーンは応えるように彼女の背に腕を回した。トリエルノもまた相手の背に手を回し、長く伸びた彼の銀髪が頬に触れるのがくすぐったく、くふくふと笑いをこぼした。
「我が妻よ、どうかこれからこの不肖シルハーンと末永く頼り頼られる間柄であってくれ」
「はい、我が公、喜んで」 

***

 晴天の下を、前後を騎士たちに護衛されたオープンルーフの豪奢な馬車が亀よりもゆっくり通っていく。沿道の人々がそれをわぁわぁと賑やかし、色とりどりの花が舞い、馬車に座した花嫁と花婿に贈り物を持って駆け寄り、国王の戴冠パレードにも引けを取らぬ華やかさであった。
「ようやくのご結婚おめでとうございます、公爵閣下!」
「領主様、奥様も、どうぞ今後とも健やかに!」
「ようやく領主様にこれをお渡しできます! 我ら魔法石組合の研磨士組からは最高級の魔法石を」
「私ら採掘士からは、ダンジョンで狩られた魔獣の毛を使ったコートをお贈りします」
「奥様、うちの店で仕立てた新しいドレスです!」
「今日一番香りのよいお花をどうぞ!」
「おひめさまにお花、あげます」
「当店が仕入れた最上級のワインを城に届けてありますので!」
 前日に告知された急な結婚式にもかかわらず、領内の者たちはそれぞれ自分たちの稼業にちなんだ贈り物と共に領主の結婚を祝福した。
「凄まじい盛り上がりですね」
 花嫁衣装に身を包んだトリエルノは驚きあきれた様に呟いて隣に座る花婿を見上げた。
「何せ今まで3回も領主の結婚が告知されては取り消されていたからな」
 シルハーンは馬の尾のように結んだ長い銀髪を揺らしてカラカラと笑ったが、すぐに眉を下げてうち沈んだ声で謝罪を述べた。
「すまんな、家族や友人に祝福を貰えるような結婚でなくて」
 しかし花嫁の方は気にしていないらしい。構いませんわ、という声は気軽な調子である。
「公こそよろしいのですか? 今日の日をお祝いしてくれるご友人やご家族がおいででしょう」
「親しい者には陛下に書類を出した時点で早馬に結婚の知らせを託している。本当に祝ってくれる者たちは式やパーティーが無くても会いに来てくれる。それに祝いの言葉などいつ貰っても嬉しいものだ」
 さわやかに笑う夫の言葉に、それもそうかとトリエルノは気が抜けたような顔で笑った。その時、往来を駆ける鋭い馬蹄の音が響いた。鞍上にいるのは執事のカルである。
「公爵閣下、トリエルノ様、王宮と我が領の見張りから緊急連絡! 上空に鳥型魔獣の群れが……!」
 カルが言い終わらないうちに、キュキョーン、という奇妙な音が空に響いた。見上げた空には暗雲が広がっている。否、雲ではない。巨大な怪鳥……鳥型魔獣の群れである。魔獣たちがバサバサと翼を強くはためかせると、凄まじい勢いの風が巻き上がった。
 祝祭の場は一気に混乱に包まれた。
 御者は素早く馬車を止めるも、馬たちが落ち着かず鳴きながら足踏みする。警備の騎士たちも自分の騎馬を宥め抑えようと手綱を強く握る。沿道の人々はあまりの風の強さに顔を腕で覆いながらも子供らや妊婦を庇って口々に退避を呼びかけ、兵士たちは盾を構えて住民たちの避難誘導を行い始める。腕に覚えのあるものはなんとか魔獣を撃退しようとしているようだった。
 混乱の中で、馬車にいた白い礼服の貴人たちは執事のカルを傍に呼び寄せた。
「我が領の見張りからの報告は分かるが、王宮から、とは?」
「王宮で何かあったのですか?」
「それが……」
 カルはちらりとトリエルノを見てから、一息に言った。
「王宮の東離宮で謹慎しておられた第5王子ルノー殿下が脱走し、まっすぐフセルフセス領に向かってきているとのことです。とにかく逃げ出したルノー殿下を捕獲するように、とのことです」
 ルノー王子の元恋人が目を見開き、それから空にはばたく魔獣の群れを睨みつけた。
「ルノー殿下の大学での研究内容は、魔獣の調教と戦術的利用でした。ですがそれ以上に、ご本人も優れた魔法の使い手です。しかし、なぜ脱走など……」
 彼女の声は震えていた。僅かに肩も震え、白い手袋に包まれた手を固く拳に握っている。しかしそれを解きほぐすようにシルハーン・フセルフセスの大きな手が彼女の手を握り、囁くような声で言った。
「俺もあなたと一緒に出る。大丈夫だ、何も不安なことは無い」
 いつの間にやらシルハーンの手は剣を携えていた。トリエルノは傍に立つ夫の顔を見つめて幼子のようにオウム返しにした。
「一緒に?」
「王侯貴族の務めは魔獣を排し民を守ること。故に、俺も出る」
 銀灰色の狼の瞳が勇ましく、しかし同時に優しく輝いている。それを目の当たりにしてトリエルノの心臓が強く脈打ち始めた。
 花婿たるシルハーン・フセルフセスは腰に帯びていた剣を抜いて強く握りつつ、轟くような声を上げた。
「騎士団及び兵士たちは住民の避難誘導を続けろ! 魔獣は俺が相手取る!」
 言うが早いか、公爵の握っていた剣は銀色の光を帯びて形を変え、長く伸び、全く別の形の武器……槍に変化した。シルハーン・フセルフセスが生まれ持った魔法、武装の魔法と呼ばれるものである。勇士は小柄な花嫁を自身の巨体で強風から庇いつつ、上空に見える黒い影に渾身の力を込めて槍を投げつけた。
 ビュン、と空を切って飛び出した槍は暴風を突っ切り、暗雲のような怪鳥の群れに突っ込んでいく。しかし彼らはキョキョンとあざ笑うような鳴き声を上げると、鋭い爪のついた足で器用にそれを掴んだ。
「……おいおい」
 呆れたように肩をすくめたシルハーンの隣で、トリエルノは人差し指と中指で魔獣たちに掴まれた槍を指し示した。
「雷よ!」
 叫ぶや否や、彼女の指先から放たれた雷が槍にぶち当たり、それを掴んでいた鳥型魔獣たちがギエェェッ!と苦悶の声を上げた。感電した彼らは身体の自由が利かず、羽ばたくこともできないまま地面に落ちた。自然と風も緩まって、沿道の人々も嘆息交じりの感嘆を上げた。
「おお……なんという勇ましさ」
「あれが領主様の花嫁君」
「あの審議会で誰よりも早く、ただ一人で魔獣に向かっていったというトリエルノ嬢」
「我ら騎士団と肩を並べるお方」
 けれど、本人はそこで手を緩めることをしなかった。周囲の言葉に表情一つ変えずに地を踏みしめ、足に電撃をまとわせるとそのまま空へと駆け上がった。周囲の人々がおおっと声を上げる。
「なんと! トリエルノ様は空が飛べるのか!」
「奥方様が扱うのは、世にも珍しい空を飛べる魔法、天空魔法のひとつ、雷の魔法だ」
「見て、とっても軽やかな動き……」
 空に躍り出たトリエルノは腕を構え、弓を引くポーズをとる。その動きを彼女に教えたのは、かつて国王の狩猟番だった祖父である。彼女の手元に魔力で編まれた弓が現れ、電撃の矢がつがえられると、誰もが彼女の勝利を確信した。
 その時だった。
 ギュオォォォン!
 空をつんざくばかりの音が響いた。その衝撃にさしものトリエルノも姿勢を崩し、そのまま強風にあおられて、身体は空から地へと滑り落ちる。
「トリエルノ!」
 とっさに駆け寄ったシルハーンが彼女の体を受け止めた。
 空には、ひときわ巨大な魔獣が羽ばたいている。それを見つけて避難する人々、誘導する騎士たちが驚愕の声を上げた。
「見ろ、あそこ! あんなにデカい魔獣見たことがねぇ!」
「まて……その上に誰か乗ってない?」
 トリエルノが巨大な魔獣の背に乗った人影の正体を見極めるよりも早く、人影が腕を振るう。その動きにトリエルノが感じたのは懐かしさだった。
霰弾氷塊(さんだんひょうかい)!」
 懐かしい声がして、巨大な氷柱がトリエルノとシルハーンめがけて降り注いだ。シルハーンは手持ちの武器を巨大な盾に変形させて攻撃を防ぎ、盾の陰からトリエルノがすばやく電撃の矢を放つ。だが魔獣は大きな翼を打ってヒラリヒラリとそれを避けてトリエルノたちのほうに接近する。そして、巨大な鳥型魔獣の背に立つ人の姿が露わになった。
「ルノー殿下……!」
 トリエルノが唸るような声でその名を呼んだ。元恋人同士である二人の、審議会以来、実に5年ぶりの再会であった。ルノー王子は元恋人を鋭く睨みつける。
「僕を裏切ったのか、トリエルノッ! あの頃あれだけ僕のことが好きだと言っていたのに、どうして僕を裏切った! それに謹慎期間が君は5年なのに僕は7年? どうしてだ!」
 トリエルノが答える暇もない。鳥型魔獣が接近し、ルノーは彼女の手首を強くつかんで魔獣の背に引き上げた。そのまま魔獣はふわりと浮き上がって高度を確保する。地上で騎士たちが魔獣を打ち落とそうと矢を放っているが、魔獣はスイスイと器用にそれを避けていく。
 トリエルノは東離宮に謹慎されていた王子になるべく丁寧に忠告をする。
「ルノー殿下、お早く東離宮にお戻り下さい。自らお戻りになれば、陛下も大切な末のご子息たる殿下を厳しく罰することは無いはずです」
「王宮の端にいても噂話は聞こえてくるものだね。聞いたよ、陛下の推薦でフセルフセル公と結婚したんだって?」
 だがルノーは聞く耳を持たない。それどころか言葉は激しさを増していく。
「どうしてフセルフセス公を選んだ、あの男と僕の何が違う! 公爵も僕も、君と同じように生まれ持った好戦的な魔法を持て余して苦しんだ、それなのになぜ僕でなく公爵なんだ!」
 ルノーが叫び、詰問する。その目はギラギラと奇妙な熱を称えている。その異様な気迫に戸惑いながらも、トリエルノはうち沈んだような声で言った。
「私が裏切ったと言うのなら、殿下もそうでしょう」
 ビク、とルノーの身体が強張った。
「殿下はかつて私に、魔獣が出た際には王侯貴族の務めとして必ず共に戦ってこれを撃退するとお約束くださった。けれど殿下、殿下はあの5年前の審議会で私と共にあの場で沙汰を受けたにもかかわらず、魔獣が出現した際に私と共に戦っては下さらなかった。私たちの謹慎年数の違いは、その差です」
 トリエルノが言葉を口にすればするほどルノーはぶるぶると震えて目を見開く。 
「殿下のお言葉を借りるなら、私と殿下は互いに互いを裏切ったのです」
 カッとルノーの目が残忍な光を放った。鋭い氷のナイフを握り、トリエルノに振りかぶった。だが、それを許す彼女ではない。曲がりなりにも暴れん坊の雷の化身とまで呼ばれた雷乙女である。
 電撃をまとわせた手を魔獣の背に押し付ける。次の瞬間、鳥型魔獣の羽の動きがぎこちなくなり、一気に高度を下げ始めた。ルノーがバランスを崩し、手に握っていた氷のナイフがトリエルノの足をかすめた。
「ッ、痛ッ!」
 その拍子に彼女自身もバランスを崩し、魔獣の背から滑り落ちた。
(しまった……!)
 このまま地面に落ちればただでは済まない。トリエルノの顔が青ざめた、その時だった。
「我が妻よ、無事か!」
 鋭い咆哮が聞こえて、彼女の身体を受け止める腕があった。
「我が公……!」
 フセルフセス公爵である。トリエルノを横抱きに抱え、建物の屋根の上に着地した。白い礼服をさんざん汚してなお狼公と呼ばれる彼の威容に陰りはない。だがその頭には、髪と同じ色の大きな獣の耳が付いていた。よく見れば長い尾もその背で揺れている。
「……公、そのお耳は?」
「王家と我がフセルフセス家は狼の因子を持っている。この姿は、いわゆる本気モードというやつだ」
「すみません、私の不注意で」
「我が妻のピンチだぞ? 本気を出さないでどうする。それより足は大丈夫か?」
 トリエルノが赤面したのを知っているのか知らずか、シルハーンは彼女の足元に屈みこんだ。出血を確認すると、シルハーンはトリエルノの足を自身の膝の上に乗せ、首元に結ばれていたタイで止血を施した。
「出血自体は浅いが、痛むだろう。無理はせず安静に」
「戦場で背を向けるか、シルハーン・フセルフセスゥッ!」
 シルハーンの言葉を遮るように、ルノーが怒声を上げて元恋人の夫に斬りかかった。だがシルハーンに隙はない。振り返りざま、立ち上がる動きで剣を振り上げ、ルノーの氷の剣を受け止めた。第5王子の頭にはシルハーンと同じような狼の耳が生え、背には尾が揺れている。 
「殿下も本気ですか!」
「まったく度し難いなぁ、狼公! いくら陛下の推薦とはいえ、どうして好きでもない子を娶ったのかなぁ。社交界随一の自由人、傍若無人の君らしくない! 貴族の中の貴族、わが国最大の要地の守護者たるフセルフセス狼公が嫌だと言うなら陛下だって聞き入れたはずなのに!」
 ルノーの操る冷気でシルハーンの剣が凍り付いた。そのまま剣が折れたが、シルハーンは引かない。むしろ、狼のように鋭い犬歯を見せつけたルノーに対して、堂々と一歩前に出た。
「図星を突かれて動揺したか、フセルフセス公!」
 ルノーが吠えて、シルハーンの肩口に噛みついた。
「まさか! ここが勝機と断じたまで。殿下、ご無礼!」
 深く牙が食い込んで、肩口は赤く滲み始めている。けれどシルハーンは戸惑わず、冷静さと自信たっぷりの態度のままで言って、折れて根本数センチしか残っていない剣をルノーの腹に突き刺した。
 ルノーの秀麗な顔が苦痛に歪んで、引きつった唇が怨嗟を吐いた。
「その蛮勇が気に食わない。トリエルノもそうだ。審議会の場で震えていた僕を置いて、真っ先に魔獣に向かって駆け出したッ!」
 絞り出すような声と共に、ルノーが再び鋭く巨大な氷柱を出現させた。けれどそれが放たれる前に、後方にいたトリエルノが雷の弓を構えた。電撃の矢をつがえて弦を引きながら、トリエルノが呟く。
「私、蛮勇どころか、勇気なんてこれっぽっちもありません。ただあのとき私は、殿下がきっと一緒に戦ってくださると信じて、それで自分を奮い立たせて魔獣掃討に乗り出しただけです」
 その声がルノーに聞こえていたかは分からない。けれど電撃の矢はまっすぐに飛んで、痛みで動きが鈍っていたルノーの身体に突き刺さった。
 ルノーの身体がばたりと倒れこんだ。気絶したらしい。トリエルノとシルハーンは第5王子の脈を確認し、ほっと息をついたところで執事のカルを筆頭に、騎士団たちや城の医師たち、今しがた早馬でヒサールに到着したばかりの王宮の役人たちが彼らに合流した。あちこちに事情を説明し、街と住人の安全を確認し、自分たちもきちんと手当てを受けたところで、ふとトリエルノはシルハーンの顔を見上げた。
 ルノー王子の言葉がよみがえる。確かに国王の推薦だったとはいえ、名門貴族フセルフセス公爵ならそれを断ることも許されただろう。そもそも妻などいくらでも好きに選べるのだ。真剣になって候補を探すなら、トリエルノより金も名誉も魔法の扱いも上手い女がいるはずだ。
 それ問うと、シルハーンはばつの悪そうな顔で頬を書いた。
「……さすがにあの場で殿下に言うと空気を壊しそうで言えなかったのだが」
 いつも朗々と言葉を紡ぐはずの彼のくちびるがまごつき、一呼吸を要した。
「たぶん、俺は随分前からあなたが好きだったんだ」
 至って真剣な顔で告げられて、トリエルノが「へ」と間抜けな声を出したのも無理ないことだった。人々がそれを噂にすることは無いが、人目を引く美貌で見つめられればなおさらである。照れを隠すようにトリエルノが問う。
「む、昔って……」
「俺が18の時の、あの決闘騒ぎのあった件のパーティーだ」
 思いがけない言葉に、トリエルノが目を見開く。社交界の二大問題児爆誕のあの現場の中心にいたのはシルハーン・フセルフセスその人であり、彼女はただ一人きり、初めてのパーティーだというのにぼんやりしながら時間をつぶしていただけだ。トリエルノがシルハーンを認知することはあれど、逆は無かったはずだ。8歳で家を壊して実家から見放された暴れん坊に誰も興味は示さなかったし、近づきたがりもしなかった。そうだったはずだ。
「あの時、あなたは周囲の者からあれこれと揶揄されて、それでもまったく気にしないとばかりに一人で酒を煽っていた。その気高い姿が目に焼き付いた」
 トリエルノが目を丸くする。シルハーンは彼女の手を取って、自身の額に押し頂く。
「審議会でのことも、このあいだのサロンでのことも……今こうして、緊急時に怯みもしないその姿もな」
「ええと……」
 戸惑うトリエルノをよそに、シルハーンは彼女の汚れ傷ついた手に口づけて、蕩けるように微笑んだ。
「あなたと結婚できて本当にうれしい」
 ついに顔を真っ赤にしたトリエルノの頬を、シルハーンがそっと撫でる。その意味するところが分かって、彼女はグイとシルハーンの胸を押した。
「あの、ダメです。私いまお化粧も髪もぐちゃぐちゃだし、その」
「構わない。あなたが俺と一緒に戦ってくれた証拠だから」 
 そのまま互いのくちびるがそっと触れ合った。トリエルノが目を白黒させていると、むこうから彼らを呼ぶ声が聞こえた。どうやらルノー王子の安全も確保され、王都の東離宮に送還する準備が整ったらしい。避難していた人々も大通りに戻ってきているらしい。向こうの方からフセルフセス公爵とその花嫁の顔を一目見たいと彼らを呼ぶ声がする。
 くちびるを離して、シルハーンがトリエルノの手を握る。
「行こうか」
「でも、あの」
「大丈夫、俺も一緒だ」
 その妙に確信に満ちた口ぶりにトリエルノがひとつ頷くと、シルハーンは彼女を横抱きにした。
 白い礼服を散々汚した花嫁と花婿が見えると、街の住民たちはわっと歓声を上げた。
「トリエルノ様と公爵閣下がおいでになったぞ!」
「見たか? 王子殿下を相手に怯みもしない花嫁様のあの戦いぶり!」
「雷乙女の異名をとるお方……」
「さすがシルハーン坊ちゃまの選んだご令嬢だ……」
「公爵様も凄かったなぁ!」
 人々は互いに顔を見合わせ、口々に彼らを賞賛した。
 フセルフセス公爵は、沿道に集まった人々をぐるりと見渡し、そして高らかに宣言した。
「これからはこの、我が妻トリエルノ・ダズリン・フセルフセスがフセルフセス騎士団と共に領内の警護や採掘場の警備に当たる!」
 公爵の言葉に、人々は今日一番の歓声を上げた。
 大喝采に包まれたトリエルノは目をぱちくりさせた。彼女がこんな風に自分の戦いぶりを賞賛されたのは実にこれが初めてだった。トリエルノはシルハーンの方を見て、感極まったような声で言った。
「私も、あなたと結婚できて良かったです」

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