好きが故に欺いて〜罠に嵌められた私を待ち受ける甘い愛〜

「……千歳さん、お待たせしました」

 ゆっくり声をかけると、スマホを見ていた顔を上げた。

 スーツ姿の千歳さんと違い、私服姿だと柔らかな印象になる。雰囲気が変わった彼に、胸がどきっと鳴る。

「今日はよろしく」
「は、はい」

 挨拶を終えると、行列の最後尾に並んだ。隣に並ぶ千歳さんをちらりと見上げると、不思議な気持ちが込み上げる。
 休日に千歳さんと一緒にいるという現実に、緊張感が込み上げてきた。


「それにしても、うさぽんの人気って高いんだなあ。やはり女性人気が高いキャラクターは、市場価値も高いな」

 千歳さんは、行列に並ぶお客様の年齢層を確認しながら分析をはじめた。
 そんな彼を見て、そうだ。これは偵察なんだ。そう思いなおした。
 デートみたい。だなんて浮かれていた自分を、ひっぱたきたかった。
 
「そ、そうですね。女性が多いですね……女性はコラボとか、期間限定とか好きですから」
「だな、広告の企画の参考になるな」
「あの、並ぶの大丈夫ですか? 結構時間かかりそうですけど……」

 男性で待ち時間が苦手な人は多い。現に過去に付き合った人は、行列を見ると明らかに怪訝そうだった。
 過去の嫌な記憶が蘇り、心配が心にのしかかる。
 
「この待ち時間は、うさぽんの人気と比例しているんだ。この待ち時間さえ愛おしい」

 予想を上回る返事に、一瞬耳を疑った。
 千歳さんを見上げると、濁りのない無垢な瞳が、発言の信憑性を高めた。

 千歳さんは、うさぽんガチ勢だ。そう確信する。
 うさぽんの魅力について語る千歳さんは饒舌で、今まで抱いていた怖い印象はいつのまにか消えていた。

 心配していた待ち時間は、推しキャラについて話していると、あっという間に順番がきて席へと通された。


 
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