好きが故に欺いて〜罠に嵌められた私を待ち受ける甘い愛〜

 自社の宣伝に利用するため、飲食飲料を扱う会社からの広告企画の依頼。
 幅広い年齢層に認知してもらうために、マスコットキャラクターも考えてほしいとの要望があった。

 依頼があった一か月前に発表され、すでに何人もの社員が企画書を提出している。

 コンペに出したいという気持ちはあったものの。日々の仕事の追われ、指導係を担当している佐伯さんの独り立ちも完璧にできていない今。参加資格なんてないと思っていた。

「でも……私なんて、指導係もきちんとこなせてないのに」
「佐伯のことなら、俺も協力するからさ」
「え、」
「佐伯が、香坂に仕事押し付けないように、仕事量を調整したり、小まめに進捗情報確認したり。俺にできることは他にもあるだろ」
「でも……」
「一人で抱え込まなくていいから。力になるよ」

 ずっと佐伯さんのことで悩んでいた。その悩みを救ってくれるような言葉に、心が穏やかになるのを感じた。

「実は……企画書だけは作ってあるんです。でも、私が出したところで無理だとわかってたので、出すつもりはなかったんですけど……」


 採用されれば、企画から広告。サービスサイトの構築まで任される。

 仕事としては、大変大きなもので、誰もが羨むコンペだった。魅力的なコンペにひっそりと企画を練っていた。
 だけど、私なんかが出しても意味がないと思っていた。
 行き場のなくした企画書は、今もパソコンの中に眠ったままだ。
 
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