好きが故に欺いて〜罠に嵌められた私を待ち受ける甘い愛〜
 コンペに挑戦する勇気をもらった私は、その日から会社に向かう足取りも軽くなった。
 
 パソコンのフォルダに眠っていた企画書を見直すために、早めに出社しよう。
 そう決めると、自然と朝の目覚めもよくなった。
  
 やる気に満ち溢れていたためか、日々の仕事も捗る。
 挑戦しようと決めたコンペの企画書を見直すのも、わくわくと胸が高鳴った。
 
「えっ、莉乃先輩、コンペ出すんですか?」

 コンペに出す企画書に修正を加えていると、背後から甘ったるい声がした。
 振り返ると、画面をのぞき込む佐伯さんだった。

「あー、うん」
「あれ? コンペ出さないって言ってませんでしたっけ?」
「……やっぱり頑張ってみようかなって」
「ふーん。そうなんですか。頑張ってくださーい」

 興味なさげに呟いたその応援の言葉には全く重みを感じなかった。
 コンペの開催が発表された時、佐伯さんは「私、責任感とかやりがいとか仕事に求めないタイプなんで、興味ないです」そう潔く言ってたっけ。

 だから、私がコンペに挑戦しようがしまいが、全く興味がないのだろう。
 簡単に会話を切り捨てられ、話題を変えられる。
 
 「そんなことより、最近、千歳さんとアイコンタクトとってません?」
 
 不意に核心をつかれて、心臓がどきりとした。
 コラボカフェに行った以降、社内で目が合う回数が増えたのは事実だった。

 誰にもばれていないと思っていたのに、佐伯さんは鋭い。


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