好きが故に欺いて〜罠に嵌められた私を待ち受ける甘い愛〜

「え、そんなこと……ないと思うよ?」

 誤魔化そうとするが、言葉に詰まってしまう。
 一緒にコラボカフェに行ったことは、秘密事項だったので真実は言えなかった。
 
「莉乃先輩はだめですよ?」
「え?」

 佐伯さんの言葉の意味が理解できず、私は聞き返す。

「千歳さんは、私が狙うんで。もし気があるならダメですよ?」
「え、狙うって……」
「そのままの意味です。千歳さんって怖い人かなって思ってたけど、意外に優しいですよねー。最近声を掛けてもらうことも増えて、あっちも私に気があるっぽいんです。ふふっ。なによりかっこいいし、いいかなーって」
「そ、そうなんだ」

 佐伯さんの言うことには、心当たりがあった。

 


『佐伯のことなら、俺も協力するからさ』

 確かに千歳さんは、そう言ってくれた。


 今までの様に私に仕事を押し付けないように、千歳さんは佐伯さんの進捗状況を確認したり、仕事量を調整してくれていたのだ。

 そのおかげで、佐伯さんから残業を押し付けられることは、あの日以降なくなっていた。

 安堵していたのに、まさか千歳さんの優しさのせいで、佐伯さんが彼に興味を持ってしまったなんて。

 予想外の展開に胸の奥がずきっと痛む。


< 19 / 54 >

この作品をシェア

pagetop