好きが故に欺いて〜罠に嵌められた私を待ち受ける甘い愛〜
4、これはデートですか
「まあ、千歳さんが莉乃先輩にいくことはないと思いますけど―。失恋なんてしたら悲しいじゃないですかぁ。だから前もって教えてあげました」
佐伯さんの棘のある言葉が胸に刺さる。
彼女の発する言葉は、女の嫌なところを集約されたように、黒く渦巻いている。
だけど、言い返す度胸なんてなくて、ただ力なく返すことしかできなかった。
「……そう、だよね」
消え入りそうな声で返事をするのが精いっぱいだった。
拒否をしたくても「だめだよ」なんて言える権利もない。私と千歳さんはただの同僚なのだから。
心に広がる名前のつけようがない感情に、気づかないふりをした。
『千歳さんが莉乃先輩にいくことはないと思いますけどー』
佐伯さんに言われた言葉が、頭の中でこだまする。
彼女のいうことは正論だった。
千歳さんは端正な顔立ちで、いわゆるイケメンと言われる容姿だ。
その上、エリートともなれば、千歳さんと付き合いたい女性は後を経たないだろう。
わかってる。私なんて相手にされないってことくらい。
わかってるのに、どうしてこんなに心が苦しいのだろう。