好きが故に欺いて〜罠に嵌められた私を待ち受ける甘い愛〜
 必然的に至近距離になった顔を見上げると、酒のせいだろうか。千歳さんの瞳はいつにもまして潤んでみえた。

 その瞳に吸い込まれるように、視線を離せない。
 千歳さんの視線は、私の唇に降りてくる。伏し目がちな視線にきゅんと疼いた。

 そのままゆっくり唇が近づく。
 きっと拒否することもできたのに、私はそれを受け入れる。


 唇を受け入れると、一気に体の熱が上がる。
 レモンとアルコールの香りが口内を侵食していく。

「……んっ、」
 

 吐息が漏れるたびに、下腹部がきゅと疼いた。

 彼の熱は、すへで溶けそうなほど心地よい。

 
 火照る体の熱も、高鳴る鼓動の理由も、全てお酒のせいにしてしまいたかった。

 きっとお酒ではなく、千歳さんの体温に溺れている。
 熱を持った唇が離れると、彼はゆっくりと口を開いた。
 
「香坂、俺……」

 言いかけると、途中で言葉を止めた。
 何か考えるような顔をして、再び口を開いた。

 
「このまま、離したくないけど……。それだと信用されないよな。酒の入ってない時に、しっかり話したい」
「は、はい……」
「明日、仕事が終わってから時間あるか?」
「だ、大丈夫です」
「じゃあ、明日。仕事が終わってから」

 甘さが残るキスの後に話があると言われたら、どうしたって期待してしまう。

 


 この胸の高鳴りも、きゅっと疼く体も。
 佐伯さんが千歳さんを好きだと聞いた時に、嫉妬でどうしようもなく荒れた心も。


 この感情の正体を、本当はもうとっくに自覚していた。



 ――私、千歳さんが好きなんだ。


 鳴りやまない鼓動を抑え込むように、そっと口元に手を当てた。

 まだ彼の熱を欲するように、唇は熱かった

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