好きが故に欺いて〜罠に嵌められた私を待ち受ける甘い愛〜


 誰も味方のいない空間に耐えれなくて、顔を伏せた。

「どうした? 何の騒ぎ?」

 低く落ち着く、けれど何処か冷たい声。
 一斉に視線が動くと、一気にしんと静寂に包まれる。
 険しい表情でこちらを見ていたのは千歳さんだ。

 いつになく険しい表情に、その場にいた全員が息を呑んだ。


「い、いや……。香坂さんが佐伯さんのアイディア盗んだんだって」
「佐伯さん、指導係でお世話になってる香坂さんに言えずに、我慢してたみたいっす」

 状況を知らない千歳さんに、男性社員たちは説明をする。
 それは佐伯さんの塗り固めた嘘だった。

 あれだけ違うと否定したのに。
 私の意見なんて、ちっとも反映されていなかった。

 
 本当なら千歳さんに、私の口から説明をしたい。
 だけど、雰囲気が重苦しい中、駆け寄ることができなかった。

 でも、きっと千歳さんなら――。
 私を信じてくれる。

 不思議とそう思った。
 期待を瞳に乗せてすがるように千歳さんを見つめる。
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