好きが故に欺いて〜罠に嵌められた私を待ち受ける甘い愛〜
「あの……知佳、千歳さんに話聞いて欲しいな」
ぽろぽろと流した涙を手で拭う仕草をしながら、佐伯さんは千歳さんを見上げた。
涙を潤ませて儚げに笑ってみせた彼女に、不吉な予感がしてどくんと心臓が嫌な音を立てる。
――行かないで。
声に出せない叫びを瞳に込めて千歳さんを見つめた。
彼の視線がゆっくり動くと、ぱちっと目があう。
しかし、その瞳は冷たくて、希望が打ち砕かれるようだった。
「……とりあえず佐伯から話聞くよ。佐伯、場所変えるぞ」
「はい! ありがとうございます」
千歳さんに呼ばれた佐伯さんは、嬉しさを隠しきれない様子でにんまりと笑う。
それから、使用していない会議室へと二人で消えた。
二人がいなくなると、集まっていた同僚たちは気まずそうな表情を浮かべて、自分のデスクへと戻っていく。
部署内の空気は重い。
私もデスクに向かい仕事に集中しようとするが、背中が視線で刺されているように痛い。
耳に届く声全てが、私への中傷のように聞こえ、責め立てられているような錯覚に陥る。