好きが故に欺いて〜罠に嵌められた私を待ち受ける甘い愛〜
このまま「盗用した人」というレッテルを張られたら、仕事も居場所もなくなるだろう。
先の見えない不安と恐怖で、心臓を踏みつけられたような息苦しさが私を襲う。
苦しさに耐え切れなくなった私は、廊下へと逃げるように飛び出した。
自分でも気づかないうちに、額に汗をかいていたらしい。首を冷や汗が伝う。
悪意に満ちた視線がなくなると、やっと息が吸えるようになった。
深く深呼吸をして、乱れる心を落ち着かせた。
あの場にいた人たちは、きっと私が佐伯さんのアイディアを盗んだと思い込んでいるだろう。
本当のことを伝えたいのに、冷たく蔑んだ視線を浴びた途端、言えなくなってしまう。
みんなの視線が、とてつもなく怖い。
自分を落ち着かせるように、心臓に手を当て深く深呼吸をしていた時だった。
コツコツと近づいてくるヒールの音が耳に届く。
顔を上げると、今一番見たくない顔だった。
「佐伯さん……」
千歳さんと話し終えたのか、佐伯さんは1人だった。
そのまま近づいてくる。