好きが故に欺いて〜罠に嵌められた私を待ち受ける甘い愛〜
『今日の約束なしにして欲しい。すまない』
絵文字もないシンプルな文字。
千歳さんからメールが届いた。
本来ならば、仕事の後に話をする予定だった。
そこで「付き合ってほしい」と言われることを期待していた。
この文字だけで、千歳さんとの関係がはじまる前に終わったのだと頭がすぐに理解する。
昨夜の色めきだった感情は、一気に溶けてしまった。
涙で視界が滲んでいく。心がぐちゃぐちゃに押しつぶされたように悲鳴をあげた。
見づらくなった文字を眺めて、不思議とすぐに腑に落ちた。
そうだよ……。同僚のアイディアを盗用したと言われてる人を好きになるわけなんてないよね。
千歳さんにだけは、信じてほしかった。
信じてくれると思っていた。
だけど、私ではなく佐伯さんの言うことを信じた。
それは紛れもない事実だった。
唇に彼の余韻を残して、はじまる前に私の恋は幕を閉じた。