好きが故に欺いて〜罠に嵌められた私を待ち受ける甘い愛〜

 どんどん居心地が悪くなってきて、会社にいくことに心がしんどくなっていく。

 なにより、佐伯さんの猫なで声を聞くのが辛かった。

「千歳さん〜。このお店行きませんか? すっごくおいしいらしいですよ?」

 佐伯さんはわざとらしく、私がいる前で千歳さんに話かける。
 そのたびに勝ち誇った視線を私に向けるのだ。

 聞こえてくる会話から推測すると、千歳さんと佐伯さんはプライベートで2人で会っているようだった。

 佐伯さんと千歳さんは付き合ったのだろうか。
 二人の会話が耳に届くたびに、心が引き裂かれていく。

 聞きたくないはずなのに、どうしても気になってしまう。

 
 
 
 嫌なことは続くようで、ある知らせが届いた。

「社内コンペの結果は、佐伯さんの企画に決定しました」


 社内コンペの結果発表。
 佐伯さんが自分の企画だと言い張ったもの。
 言い換えれば、私の企画が通ったのだ。

 拍手とお祝いの言葉が交差する。

 祝福の声を向けられるのは私のはずだった。
 だって、あの企画を考えたのは私なのだから。


 けれど、現実に祝福の声と拍手の矛先は、私ではなく佐伯さんに向けられる。
 あの事件後、私の考えた企画は佐伯さんのものとして出されていたからだ。

 胸が抉られたように痛い。
 気が遠くなるような息苦しさを感じて、その場にいるのがやっとだった。

 
 そんな私とは対照的に、佐伯さんは祝福と歓声の中心にいる。

 彼女は半年弱で、同僚たちの信頼を掴んでいた。
 この4年間、私は何をやっていたんだろう。
 そう思ってしまうほどに、味方が誰一人いなかった。
 

< 41 / 54 >

この作品をシェア

pagetop