好きが故に欺いて〜罠に嵌められた私を待ち受ける甘い愛〜
どんどん居心地が悪くなってきて、会社にいくことに心がしんどくなっていく。
なにより、佐伯さんの猫なで声を聞くのが辛かった。
「千歳さん〜。このお店行きませんか? すっごくおいしいらしいですよ?」
佐伯さんはわざとらしく、私がいる前で千歳さんに話かける。
そのたびに勝ち誇った視線を私に向けるのだ。
聞こえてくる会話から推測すると、千歳さんと佐伯さんはプライベートで2人で会っているようだった。
佐伯さんと千歳さんは付き合ったのだろうか。
二人の会話が耳に届くたびに、心が引き裂かれていく。
聞きたくないはずなのに、どうしても気になってしまう。
嫌なことは続くようで、ある知らせが届いた。
「社内コンペの結果は、佐伯さんの企画に決定しました」
社内コンペの結果発表。
佐伯さんが自分の企画だと言い張ったもの。
言い換えれば、私の企画が通ったのだ。
拍手とお祝いの言葉が交差する。
祝福の声を向けられるのは私のはずだった。
だって、あの企画を考えたのは私なのだから。
けれど、現実に祝福の声と拍手の矛先は、私ではなく佐伯さんに向けられる。
あの事件後、私の考えた企画は佐伯さんのものとして出されていたからだ。
胸が抉られたように痛い。
気が遠くなるような息苦しさを感じて、その場にいるのがやっとだった。
そんな私とは対照的に、佐伯さんは祝福と歓声の中心にいる。
彼女は半年弱で、同僚たちの信頼を掴んでいた。
この4年間、私は何をやっていたんだろう。
そう思ってしまうほどに、味方が誰一人いなかった。