好きが故に欺いて〜罠に嵌められた私を待ち受ける甘い愛〜
あの日以降、千歳さんと話すこともなかった。
本当はキスをした意味を聞きたかった。
けれど、佐伯さんと仲睦まじくする千歳さんを見ると、問いただす勇気も消えてしまう。
これ以上傷つきたくない私は、ただ彼を目で追うことしかできなかった。
現実を受け入れたはずなのに、まだどこかで期待を捨てきれずにいるのだろうか。
千歳さんの姿を見るたびに、心はぎゅっと締め付けられたように痛かった。
「莉乃先輩、この資料を会議室に並べといてもらえます?」
「え、」
返事をする前に渡されたのは、これからはじまる企画会議の資料。
私が関わることのない会議の資料だ。
すぐに受け取らずに戸惑っていると、佐伯さんは薄らとほほ笑みながら言葉を続ける。
「手が空いてるのって、莉乃先輩だけなんですよ」
くすっと笑いながら、見下された視線を向けられ、思わず顔が歪んでしまう。
確かにあの事件以降、信用をなくした私は任される仕事が明らかに減った。
そのことを指摘されて、屈辱感で手元が震えた。