好きが故に欺いて〜罠に嵌められた私を待ち受ける甘い愛〜
「……失礼します」
居た堪れなくなり自然と顔が俯く。
ここに私の居場所はない――。
逃げるように会議室を出ようとすると、行手を遮るかのように大きな体にぶつかった。
「す、すみません」
慌てて顔を上げると、心臓がどくんと跳ねた。
「……千歳さん」
ゆっくり視線を落とす千歳さんと目があう。
久しぶりに視線が重なり、胸がきゅっと音を立てた。
急いでその場を後にしようとすると、ぐいっと腕を掴まれて静止させられる。
「え……」
千歳さんに腕を掴まれて固まる私に、淡々と言葉を続ける。
「香坂も残れ」
「わ、私がですか?」
千歳さんの言葉の意味がわからなかった。
私はこのプロジェクトから外されている。
この場にいる人は、私が盗用したと今も思い込んでいるだろう。
どうして残るように言われたのか、いくら考えても分からなかった。
「千歳さん、私は部外者ですから」
「いいから。言われた通りに俺の横にいればいい」
落ち着く低い声に、反論できず言われるがまま、隣に腰を下ろした。
そんな私を、鬼のような血相で睨む佐伯さんに気づかないふりをした。